本流トヨタ方式の土台にある哲学」について、「(その1)人間性尊重」「(その2)諸行無常」「(その3)共存共栄」「(その4)現地現物」という4項目に分けて説明しています。

 「(その1)人間性尊重」の哲学には、次の8カ条があります。

(1)ありのままを受け入れ、持っている能力を引き出し、存分に発揮してもらう
(2)会社都合で従業員を解雇しない
(3)家族の応援と職場のチームワークが活力の源
(4)人を責めずにやり方を攻めよ
(5)異動は一番優秀な人から
(6)3年経ったらサボれ
(7)偉い人が言ったから正しいのではない。正しいことを言った人が偉いのだ
(8)最後に決断を下し、全責任を取るのが上司の役目

 これまでに、この中の(1)~(4)について話をしました。 今回は「(5)異動は一番優秀な人から」についてお話ししましょう。

野菜作りを通して得た「信念」

 これは、人材の育成だけでなく組織の活性化のためにも大切な考え方の1つです。具体的な話をする前に、筆者が趣味としている野菜作りの体験談をお話ししましょう。

 15年ほど前のことです。筆者は有機農業に凝り、小さな畑を借りて野菜を作っていました。ある時、知人から、いらなくなった野菜の種を大量に入手しました。普通は種をより分けて畑にまくのですが、筆者は好奇心から、わざと全部を混ぜ合わせ、それを畳2畳ほどの台形にした床土に、びっしりとばらまきにしました。非常識極まりない農法でしたが、次の<1><2><3>の現象を観察できました。

 <1> 同時にまいた種ですが、発芽してくる順番は、野菜の種類には関係なく、地中での条件によって早さが決まったようでした。早く発芽した苗は日光を独占し、すくすくと育っていきますが、後れを取った苗は日光が当たらないため育ちが悪く、さらに後れた苗は、さらに日が当たらなくて、もやし状になりながら伸びてきます。

 つまり、大きくて丈夫な苗になるか、ひ弱な苗になるかは、種類に関係なく、運良く早く発芽したかどうかによると分かりました。

 <2> 背丈が5センチ位になった苗を、いわゆる「摘菜」として収穫していくと、日陰にいた苗に日が当たり、1~2日で「摘菜」ができる大きさに育ちます。これを摘むと次が育ってきます。摘む端から次が育ってきて、これを1カ月間続けることができました。

 <3> 大根やほうれん草、チンゲン菜など、種類も形も違う様々な野菜がびっしりと高い密生度でひしめき合い、それぞれみずみずしく育っていき、日照りの続く中でもその床土はいつも湿っており、畑の中でそこだけ別世界でした。

 筆者は上記現象<1>からは、
「野菜の種類よりタイミングの良さ」、さらには「氏より育ち」が大切と学びました。

 現象<2>からは、
「上に被さっているものを取れば下が伸びる」ことを学びました。

 現象<3>からは、
「多様な個性の競争と協調から活力が生まれる」ことを学びました。

 筆者が諸先輩から教わってきた本流トヨタ方式にあるこれらの概念は、野菜作りを通じて筆者の「信念」に変わったのでした。