資本主義が格差をもたらすのか?

中国の温首相、追加景気対策に言及 全人代閉幕

貧富の格差解消を重視(中国・温家宝首相)〔AFPBB News〕

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 だからだろう、ある中国経済研究家は最近、同国共産党幹部からこんな疑問をぶつけられたという。「中国は市場主義を導入してから格差が拡大している。やはり市場主義に問題があるのではないか。経済運営を国家主導に戻すべきなのではないか」

 これに対し研究家は「市場主義が悪いわけではない」として、格差拡大の理由を3つ挙げたという。

(1) 市場主義導入からまだ日が浅く、国家と民間の役割が未分明。例えば国家が儲け仕事に走り、本来国がやるべき社会保障などを民間に丸投げしている

(2) 市場主義は参加者が情報を共有していることが必要だが、相変わらず中央集権の中国では、国と民間の保有している情報には、質・量ともに大きな差がある

深刻化する中国の失業問題

解雇され、故郷に戻る出稼ぎ労働者。都市と農村の格差は拡大しつつある〔AFPBB News

(3) モラルが低く、政府・軍幹部など国家中枢にいる者の汚職が頻発している

 ――「これらの要因が重なり合って、格差が解消するどころか拡大しているのだろう」。そう結論づけたそうだ。

 それを聞いて、「規模だけは世界第2位になっても、中国経済は所詮まだ底が浅い」――そう言おうとして、言葉が止まった。いや、待てよ、日本もまた中国の相似形ではないか。そう思ったからだ。

1940年体制を引きずる日本の経済システム

 例えば、国家と民間の役割である。野口悠紀雄・早稲田大学大学院教授によると、日本経済システムの原型は「1940年体制」にある、という。

 太平洋戦争に向けて国家総動員法が制定されたのが1940年だ。日本経済は強固な中央集権的体制となり、そのシステムが敗戦後も維持された結果、驚異的な高度成長を遂げ、世界第2位の経済大国になった。

各国で記録的株安、金融危機への懸念高まり

金融危機は日本経済を総点検する絶好の機会〔AFPBB News

 しかし、中央集権的であり、民間も国家依存意識が抜け切らないからこそ、危機のたびごとに国家の登場となる。先進資本主義国であるにもかかわらず、それこそ国家と民間の役割が未分明だ。両者を分ける軸が常に揺れている。

 あるいは情報の共有性にしてもしかり。50年以上にわたる実質的な自民党一党支配が続き、その中で特に政策情報は「霞が関」が独占してきた。

 かつて現役官僚からこんな話を聞かされたことがある。「うちの局長は野党から資料要求が来ても、そんなのは放っておけ、と言っている」。予算にしても、一般会計はともかく、特別会計になるとまず情報は公開されない。情報の偏在は、日常的だった。

 さらにモラル。もちろん資本主義国として洗練されてきた日本では、「首相の犯罪」のような権力による大汚職はもう起こらない。

「ベルリンの壁」崩壊の陰に謎の電話、ドイツ

1989年12月、ベルリンの壁は崩壊した。今年は冷戦終結から20年目〔AFPBB News

 しかし、例えばビジネスマンたちを駆り立てている日々の原理は何だろう。利益、つまりは帳簿上の数字のケタ数を増やすことではないか。そのことと社会的利益との関連性は問われない。

 一人ひとりが有能な専門家であることは確かである。しかし「精神なき専門家」があふれている。だから「利潤動機」が行き過ぎてしまう。それでもモラルがある、というのは傲慢だろう。

 さて、日本の資本主義はこのままで良いのだろうか。

 時代の歯車が大きく回ろうとしているいま、こうした経済体制のままで豊かな未来が約束されるとは思えない。世界金融危機は日本経済を総点検する絶好の機会を提供したのではないだろうか。冷戦終焉からちょうど20年になるこの夏、そんなことを考えた。