2009年8月30日の総選挙に向けた各政党の政権公約(マニフェスト)を見ると、農政に関しては零細農家に媚びる永田町の姿勢が浮き彫りになる。

参院選で民主勝利、2大政党制が本格始動か

2007年参院選、民主党が「農村票」奪って大勝〔AFPBB News

 2007年の参院選で潮目が変わった。小沢一郎代表(当時)率いる民主党が、コメなど主要農産物の価格が下落して生産費用を下回った場合に「赤字」額を農家に直接支払う「戸別所得補償制度」を前面に押し立て、「農村票」をさらって大勝を収めたからだ。

 その後、小泉政権以来の農業分野の構造改革で切り捨てられかけた小規模農家への配慮を、各党が競い合う構図が定着した。政権交代のかかる今回の総選挙だが、その結果にかかわらず、永田町が零細農家の保護政策で彼らの支持を獲得しようという構図は変わらないだろう。

 世界的な人口増加のほか、中国やインドの経済成長に伴う食生活の変化などに伴い、穀物需給には不安感が急速に台頭している。世界貿易機関(WTO)交渉を通じ、農産物市場の対日開放圧力も強まる一方だ。しかし国際的な環境変化にも、永田町は「どこ吹く風」。日本農業の改革と競争力強化、それに食料自給率向上を目指す抜本対策は先送りされる可能性が大きい。

石破農水相の予言「来年もそうなる。間違いなく」

石破農水相「早く民意を問うべきだ」、早期解散を要求

「改革派」石破茂農水相、農林族と対立(参考写真)〔AFPBB News

 政府・与党内では2009年前半、石破茂農水相ら「農政改革派」と自民党農林族を核とする「守旧派」が、コメの生産調整(減反)をめぐり鋭く対立した。

 1971年から40年近く続いてきた減反でも、コメの値下がりは止められない。2008年産米の1俵(60キログラム)当たりの価格は1万5000円前後、1990年代初頭に比べると2割以上も安い。減反に参加しない農家が3割に達し、参加した農家の間でも「減反しても所得は下がるばかり」との思いが根強く、政策転換は喫緊の課題だ。

 しかし石破農水相は劣勢を否めず、2009年6月中旬の記者会見で捨て台詞を吐き捨てた。「混乱・動揺があるからと言って今回(総選挙のマニフェスト)は当たらず障らずとなれば、来年もそうなる。間違いなく」

 今回、改革に取り組む構えを示せなければ、2010年の参院選でもその実現は無理。結局いつまで経っても実現できないと訴えたのだが、自民党はマニフェストに「減反見直し」を盛り込まなかった。民主党も含めて政界は農水相の予言通り、農業の構造改革を後退させる方向に突き進んでいる。