今年は全国的に気候が不順で、ギラギラと太陽が照っているカーッと暑い日が少ないような気がするが、やはり夏と言えばビールと枝豆が定番。蒸し暑い日に冷たいビールを喉を鳴らして流し込み、枝豆をつまむ。生きていてよかった~、と思う瞬間でもある。
枝豆は、少しの「手間」でびっくりするほどおいしくなる。まずは洗った豆の両端をハサミで少し切り落とす。こうするとお湯が中まで浸透しやすく、豆がふっくらして、お湯の塩味も中まで入る。
次に多めの塩をまぶし丁寧に揉み、そのまま30分ほど置いてからお湯の中へ。塩もみすることで綺麗な色が出るのだ。その後は少し味見をしながら、茹で上がりのほんのちょっと手前でザルに上げるのがコツ。
そして、水などかけず、アツアツのうちに塩をパラパラと振りかける。ここで水をかけて冷やすのは厳禁。食卓には温かいうちに出して速攻で食べる。これがおいしい夏の風物詩だ。
丹波篠山「黒大豆」の枝豆は10月が旬
さて、色鮮やかな枝豆は暑い盛りが定番だが、実は10月が食べ頃の枝豆もある。黒豆の王様、丹波「黒大豆」の枝豆だ。
丹波「黒大豆」はお正月の煮豆でおなじみの、大豆の中でも特に粒が大きい大粒種。現在は岡山県や京都府などでも生産されているが、丹波篠山が本家本元の生産地である。
大粒種の枝豆だけあって、サヤの大きさ、粒の大きさには驚かされる。一般的な枝豆の優に1.5倍。やや黒みがかった粒はどっしりと重みがあり、旨みと甘み、黒豆の香ばしさを兼ね備えた味わいは実に奥深い。
特に、10月前半(例年1~13日頃)の出荷分は、みずみずしい色艶が特徴で甘みが強く、後半(例年22~27日頃)の出荷分は、豆が少し茶色味を帯びるものの、栗のようにホクホクとした食感が味わえる。この違った味わいと食感を楽しむため、時期をずらして2度注文してくる人も多いというのもうなずける話だ。
一つひとつの枝豆を丁寧に手もぎ
私がおじゃました「いくた農園」(兵庫県篠山市)の生田さんは、2000年に脱サラをして都会から篠山の地に住み着いた。盆地であり、粘土質の土を持つこの地は、山から流れ込む豊富な栄養分を含んだ水をしっかりと貯蔵しており、良質な土の下に広がる石灰層が土をアルカリ性にして、野菜の成長を助けてくれる。
しかも昼夜の寒暖差が非常に大きいことで、作物の糖度がより高くなる。丹波霧と呼ばれる濃霧は、野菜に十分な潤いを与える。生田さんはこの土地に惚れ込み、無農薬・無化学肥料の野菜作りをしているのだ。
生田さんのこだわりは、黒大豆枝豆の収穫にも十分に表れている。一般的な枝豆は、枝ごと抜いて出荷することが多いため、根元近くの成長したサヤと、先端の成長途中のサヤが混在している。つまり、豆の大きさにバラつきが出るのだ。一方、いくた農園ではそうしたバラつきを防ぐために一つひとつ丁寧に「手もぎ」して、十分に大きくなったサヤだけを選んで収穫している。
広い畑で1本1本の枝を確認しながらの収穫作業は、想像を超える労力を必要とする。出荷後はサヤを常に濡れ新聞でくるみ、豆の糖度を保持しながら検品する。そしておめがねにかなったサヤだけをすぐさま急速冷蔵し、その日の夕方にはクール便で消費者のもとに発送する。つまり、鮮度が非常に高い。この鮮度の高さも、「甘さ」「旨味」の秘訣なのだ。
生田さんが追い求めるのは、「どこにも負けない安心感、本物の味わいとコク」。丹波篠山黒大豆枝豆は、旨みとコクをゆっくり、じっくりと味わいたい。真夏の「ビールと枝豆!」とはまた違った趣が楽しみだ。