オバマ米大統領の就任から、半年が過ぎた。喫緊の最優先課題だった金融・経済の安定化にめどを付けた実績は、過小評価されるべきでない。一方、「100年に1度」の不況下で雇用難にあえぐ国民の間では、じわりと失望感も広がりつつある。米国ばかりか、全世界を熱狂させた「変革」の理想は、厳しい現実に直面し始めた。
就任後わずか1カ月足らずで、オバマ大統領は7870億ドルに上る景気対策法を成立させた。金融機関へのストレステスト(特別検査)断行で市場に安心感をもたらし、自動車大手ゼネラル・モーターズ(GM)とクライスラーの経営危機は事前調整型の破産手続きで軟着陸に成功した。
ブッシュ前大統領から引き継いだ「負の遺産」に対し、オバマ大統領は電光石火の早業で対策を次々に繰り出した。その結果、一時は金融恐慌の寸前にまで陥った米経済は、「最終需要や生産には一応の安定化の兆し」(バーナンキ米連邦準備制度理事会=FRB=議長)が見られる水準に立ち直ってきた。
オバマ大統領の政治手腕には、合格点を与えてよいだろう。主要経済省庁の幹部人事が出そろわず、態勢が整わない中での政策スピード感は「驚異的」(外交筋)ですらある。中でも司令塔となるべき財務省では、ガイトナー長官以下の次官級幹部が軒並み不在という異常状態が最近まで続いていたのだ。
「オバマじゃない」「何もしてくれない」・・・黒人層の憤懣
春の訪れと呼応するように、ニューヨーク市場の株価も持ち直し始めた。
資本増強を迫られた大手金融機関は相次いで増資に成功し、オバマ政権は残り少なくなった公的資金の投入枠を温存できた。2009年4~6月期の米銀決算が好調だったとはいえ、証券化商品など不良資産の処理が進まず、今後も損失を出す可能性を考えると金融対策の自由度を確保した意義は小さくない。
しかし、いつまで経っても払拭されない雇用不安には、国民の苛立ちが募るばかりだ。
「あそこにいるのは、オバマじゃないわ」。2009年6月下旬の夕刻、ホワイトハウス前を通りかかった筆者に対し、見ず知らずの黒人の中年女性がいきなり話しかけてきた。「選挙運動中のオバマとは別人。私たちのために何もしてくれていない・・・」と憤懣やるかたない表情だ。
2009年7月20日付のワシントン・ポスト紙とABCテレビによる合同世論調査によると、オバマ大統領の支持率は59%に下がり、就任以来初めて60%を切った。景気対策に対する支持は52%にとどまり、6月の調査から4ポイントも低下している。
景気の急降下にはようやく歯止めは掛かったものの、6月の失業率は全米平均で9.5%と四半世紀ぶりの高水準となり、雇用不安は強まる一方だ。とりわけ黒人の失業率は14.7%まで上昇し、16~19歳に限ると39.4%にも達する。オバマ大統領は「失業率は2ケタに達するだろう」と述べ、忍耐を国民に求めるしかない。