前回のコラム(「金融危機後の新たな世界秩序構築へ」6月25日公開)では、米国主導からG20中心の国際金融秩序へのシフトと金融規制再構築の動き、経常黒字国と赤字国の不均衡是正の必要性について指摘した。今回は、不均衡是正問題を入り口として、米中を中心とした世界経済の構造変化がもたらす投資機会について考えてみたい。
米・中の双発エンジンが支えた経済成長
金融危機以前の世界経済を振り返ると、グリーンスパン前米連邦準備理事会(FRB)議長がFFレートを1%まで引き下げた2003年以降、金融緩和効果と新興国経済の拡大により、世界経済は5年間にわたり安定したインフレ環境下での高成長を実現してきた。
2003~07年の世界経済の成長率は年平均4.6%。米ITバブル期を含むその前の5年間の同3.1%と比較して、飛躍的に成長スピードを高めた拡大期だった。当時の世界経済の双発エンジンは、巨額の経常赤字を抱えながらも大量消費を続ける米国経済と、安価で潤沢な労働力を武器に「世界の工場」として外需と投資主導の高成長を実現した中国経済だ。
金融危機前夜の2007年、「アジアがモノを作り、アメリカ人が消費するグローバル経済モデル」の最盛期を迎えていた。そして、こうしたモノの動きを背後で支えていたのは、中国を中心とする経常黒字国が、米国債投資を通じて米国の巨額な経常赤字をファイナンスするというカネの流れだった。
また、世界経済の高成長が、供給制約を持つ資源の価格高騰という副作用をもたらしたのもこの時期の特徴だ。こうした経済モデルは、旧ソビエト連邦崩壊や1990年代のいくつかの国際金融危機を乗り越えた結果、国際政治、経済、金融の分野におけるパワーが米国に一極集中した時期に形成されたものであり、対立軸が存在しないため過剰が蓄積されやすい構造を孕んでいた。
米国は中国から借金をして消費を続け、中国は米国に製品を輸出するとともにその購入資金を貸し出すことによって両国経済が高成長を続ける。
市場化した自国経済の発展のため米国主導の経済モデルに自ら進んで組み込まれていった中国も、米国発の金融危機に直面しドル保有のリスクを体感したことで、既に米国と抜き差しならない関係にまで足を踏み入れていたことに気づいたのである。
世界経済の持続的回復に必要なもの
7月に発表された5月の米国貿易統計では、輸入の減少を主因として貿易赤字が過去9年間で最低水準の▲260億ドルまで縮小していた(直近ピークは昨年7月の▲649億ドル)。一方、5月の米国貯蓄率は6.9%と1990年代前半の水準にまで戻ってきた。米国の消費者はついに過剰消費をあきらめ、貯蓄性向を高めたのである。
米GDPの7割を占める個人消費が伸びない中では、米国経済の自律的な回復は期待できない。7870億ドルの財政刺激の効果は今後徐々に顕在化してくるものの、内外需の持続可能な成長がなければ、財政刺激効果の剥落とともに経済は再度失速してしまう。
急拡大した財政赤字をさらに拡大させることは、政治的困難を伴うことはもちろんのこと、長期金利の急上昇やドル急落など世界経済にとって有害な副作用をもたらしかねない。最悪期から脱出した世界経済の今後の回復軌道を確かなものにするためには、「米国は外需を伸ばし」「中国が内需を伸ばす」という、従来とは逆方向にベクトルを向けることにより、米中2大経済圏の経常収支不均衡を是正していく工夫が必要だ。
中国は危機対策として4兆元の景気対策に乗り出しているが、その中心は投資拡大。大規模な公共投資により、2009年第2四半期の実質GDP成長率は前年同期比7.9%とリーマン・ショック以前の水準を回復した。しかし、今後、景気の牽引役を公共投資から消費へとバトンタッチしていけるかどうかが課題。こうした両国の経常収支不均衡を解決する有効な手段は、為替レートの調整である。