今年5月にトヨタ自動車が世に送り出したハイブリッドカー、新型「プリウス」。受注は前月末段階で20万台を優に超え、6月の車名別販売の総合ランキングで1位となる異例の大ヒットとなっている。未曾有の不景気でモノが極端に売れない中、エコブームと減税措置とも相まって記録的な受注規模となっているのは間違いない。

 かつて本コラムでは、先代よりも割安に設定されたプリウスのプライスタグに関して、機関投資家が疑問を抱いていると触れた

 今回は、プリウスがトヨタの販売面でのパラダイムシフトの起点になるかもしれない、との観点で、分析を試みたい。

プリウスの売れすぎでディーラーの経営がおかしくなる?

 「ツレ(友人)がクラウンを下取りに出して、プリウスにしたんだわ」「俺のツレもハリアーからプリウスだで」・・・。

 先月末、私用で名古屋を訪れた際、友人たちの中からこんな声が聞こえてきた。冒頭で触れた通り、東海地区でも間違いなくプリウスはヒットしていることを筆者は強く感じた。実際、プリウスの2つの生産工場はフル稼働中で、現時点で注文を入れても、納車は来年2月以降になるという。

 ホンダの「フィット」やスズキの「ワゴンR」など、近年の大ヒット車の記録を塗り替えるとの観測も日増しに強まっている。昨年、創業以来の赤字となったトヨタの業績回復をプリウスが牽引する、というのが世間一般、普通のマスコミの見方だ。

 だが、機関投資家や一部の自動車アナリストは依然、こうした一般の見方に極めて懐疑的だ。以前触れたように、ホンダのハイブリッドカー「インサイト」との対抗上、実質的な値下げに踏み切ったことで、販売台数をさばけても利益はわずか。収益回復にプリウスがあまり貢献しないとの見方が根強いためだ。

 「プリウスが利益を生むクルマになったという説があるが、あくまでも開発費を除いての計算」(外資系運用会社)というわけだ。

 受注が膨らんだとトヨタが発表するたび、今度は別の要因でプリウスの先行きを懸念する声が増えている。

 その要因とは、「従来の売れ筋商品構成をプリウスが完全に壊してしまうのではないか」(同)というもの。実際、「プリウスが売れ過ぎると、ディーラーの経営がおかしくなる」(アナリスト)との声も聞かれ始めているのだ。

 販売面での懸念は、以下のような構図だ。旧型プリウスは2系列だったが、新型プリウスは4系列ある全てのディーラー網で一斉販売されることになった。