6月23日政府の臨時閣議で「骨太の方針2009」が決定されました。その中で、社会保障費の抑制方針が撤回され、「安心・安全を確保するために社会保障の必要な修復をする」との文言が追加されました。

 これまで、政府は年に2200億円の社会保障費を削減し続けてきましたが、一転して削減を取りやめることを明確に打ち出したのです。振り返ってみると2002年度以来、5回にわたって2200億円を削減したことで、医療費が7.53%も減っていました。

 社会保障費を取り戻して、削減前まで戻すには、2200×5=1兆1000億円が必要になります。本当にそこまで医療に予算を回すつもりなのかどうかはまだ分かりません。

 それでも、「社会の高齢化が進む中、現状維持するだけでも医療費が増大する」という、当たり前のことが認識されたのだと思います。また、診療報酬内の配分だけでなく、国家の予算配分も少子高齢化社会に応じて調整しなければならないことが認識されたのではないでしょうか(そう思いたいところです)。

実は日本の医療体制は世界一

 今回の決定までには、開業医と勤務医の給料の違いや、医師の診療科目や働く地域を制限すべきかといった議論も含め、様々な議論が行われました。そうした議論を見ていると、「社会保障費の削減を主張する側」と「医療従事者側」の間には、根本的な認識の違いが2つあるように感じられます。

 1つは、少子高齢化が進む今の日本において、医療水準を高く維持していくためには、医療費が増えていくのが当たり前だという現実への認識です。

 医療従事者側にとっては、この現実を無視して「無駄をなくすべき」「増やす必要はない」と言われても、根本的な認識が違うので、議論がかみ合いません。

 それともう1つ、認識されていないことがあるようです。

 それは、日本の人口の高齢化比率は21%と世界の中でも極めて高いのですが、経済協力開発機構(OECD)諸国30カ国の中で、医療費のGDP比率が8.2%と、21位の低さなのです。

 それにもかかわらず、日本人の平均寿命は世界ナンバーワン、乳幼児死亡率も世界ナンバースリーで、米国の3分の1程度なのです。さらには、フリーアクセス(居住地にかかわらず、どこの病院でも診療を受けられること)も保たれており、世界保健機関(WHO)も日本の医療は世界1位の水準と認めているという事実があります。

 その事実を認識していれば、「日本も外国と同じようにすべきだ」とは安易に言えないはずなのです。

日本と米国ではまったく事情が違う

 財務省の委員会で、「病院の勤務医に比べて、開業医の給料が高すぎる」という主張が見られました。6月15日の産経新聞の社説でも同様の主張が載り、日本医師会が反対声明を出しました。

 「開業医の給料が高い」という主張を裏付けるものとして、「米国では専門医(勤務医)の方が家庭医(開業医)よりも給料が2倍くらい高い」という事例が引用されていました。