世界最先端を行く約30の科学技術テーマを選定し、国として総額2700億円の研究資金を提供する──。

 6月19日に政府の総合科学技術会議(議長は麻生太郎首相)が開かれ、かつてない大型の研究開発支援制度「最先端研究開発支援プログラム」が正式にスタートすることが決まった。

 同プログラムでは、首相、科学技術担当大臣、有識者らが集い、日本を代表する30人程度の研究者を選定。3~5年にわたって自由度の高い研究資金を提供する。さらに、資料作成や評価など研究者の雑務を引き受けるサポートチームを結成し、研究に専念できる環境を提供する。

 日本の経済発展に直接つながる研究はもちろんのこと、基礎研究も支援の対象とする。平均すると、1つの研究に約90億円の資金が提供されることになる。ただし、すべての研究に同じ額が提供されるわけではない。提供資金は、課題ごとにフレキシブルに設定する。

「このプログラムの成功でさらに科学技術予算が増えるはず」

 6月20日、国立京都国際会館で開催された第8回産学官連携推進会議において、野田聖子・科学技術政策担当特命大臣は講演を行い、この最先端研究開発支援プログラムには2つの大きな意味があると語った。

 1つは、現在の研究者を取り巻く環境を打破する点だという。

第8回産学官連携推進会議の展示を見て回る野田大臣

 「このプログラムに対して、特定の研究者にだけ大きな資金を提供するのは不公平ではないかという指摘があります。しかし、このプログラムが成功すれば、予算の単年度主義や、研究者にとって使いにくい研究費、さらには雑用に追われて研究に専念できない環境など、これまで研究現場が抱えていた大きな問題を乗り越えることができます」(野田大臣)

 また、今回のプログラムは、補正予算によって従来の科学技術予算の上乗せとして措置されるものである。他の予算が削減される性格のものではない。つまり、「このプログラムによって、むしろ予算獲得のチャンスがさらに増えるのです。将来の大きな制度改革、科学技術予算の全体の底上げにつながるものとして、前向きにとらえていただきたい」という。

 野田大臣が唱える2番目の意味は、国民の科学技術への関心の増大だ。

 3兆円を超す科学技術関係の予算は、国民の税金で賄うものだが、国民から見ると、科学技術の成果が何の役に立っているのかよく分からないという声がある。日本の誇る科学技術力をすべての国民が実感できていないという実態がある。

 野田大臣は、「これまで、国民に科学技術に関心を持ってもらい、ぜひ科学技術に投資したいと思ってもらう努力が足りなかったのではないでしょうか」と言う。

 その方法の1つが、科学技術の世界でスーパースターを育てることだ。「今回のプログラムで選定されるのは、いわば科学技術界のスター選手。科学技術の世界から野球のイチロー選手のようなスター選手が現れて活躍すれば、国民の関心を集められるはず。ひいては科学技術予算の増大にもつながると確信しています」(同)

具体的な選定基準の作成はこれから

 戦後、日本は科学技術力によって経済発展を成し遂げ、現在の地位を築いた。このプログラムには、資源に乏しい日本が国際競争力を持ち続けるために科学技術力を底上げしたいという政府の狙いがある。