6月5日の講演で、中川は「鳩山総務相が信念を持って自身の主張を貫き、郵政民営化に反対するならば、仕方がない。堂々と内閣から去ってもらわなければならない、それが筋道だ」と鳩山の辞任さえ求めている。鳩山が辞任すれば、麻生政権への打撃は計り知れない。「麻生降ろし」の引き金になる可能性があり、中川の狙いはそれにあるとの見方さえ出ている。
また与党内には、「鳩山のパフォーマンス」を批判する声が多い。自民党のある若手議員は「これで鳩山さんは次の選挙は安泰。少し前まで選挙区は厳しい情勢だったが、日本郵政問題で一気に知名度が上がった。すべては選挙目当てで動いている」と揶揄する。
政府が株式を100%保有する日本郵政の株主総会で、西川の取締役再任を含む人事案が了承されても、これを鳩山が認可しなければ「閣内不一致」の事態になる。かといって、「信念を曲げることはしない」と訴えてきた鳩山が、ここで譲歩すればそれは「政治的な死」を意味する。それだけに、鳩山が考えを覆すことはあり得ない。
となると、西川社長続投を実現するには、麻生が鳩山を更迭するしかない。だが、麻生にとって鳩山は、自民党総裁選を長きにわたり応援してくれた盟友。「首相に鳩山が切れるわけがない」(首相周辺)と言われており、鳩山も「正しく判断していただけると首相を信じている」と自信満々だ。内閣改造で鳩山を代える案も一部で浮上したが、「姑息な手段」と批判を浴びるだけ。現実的な選択肢ではない。
鳩山の心境を周辺は次のように解説する。「鳩山さんが辞めることはない。最初は西川社長を辞めさせて国民の支持を受けた上で、自分も格好よく辞任できると思っていたみたいだが、そうはいかなくなってきたと思い始めている」
自民幹部「最終的に大臣任命した首相の責任」
麻生は当初、鳩山と財務・金融・経済財政相の与謝野馨、官房長官の河村建夫の関係3閣僚による調整に委ねていた。
問われる首相の決断力〔AFPBB News〕
ところが6月8日夜、最終的には自ら判断しなければならないとの見解を、麻生は記者団に示した。「最終的に今、調整をしなくちゃいかんところだとは思ってますけれども、ちょっといつやるかというのは、今がいいのか、(6月)29日の株主総会の日がいいのか、いろいろ意見の分かれるところであろうと思ってますんで、よくよく聞いた上で最終的に(自分が)判断せにゃいかんでしょうね」
自民党ベテラン議員が語る。「最後は首相が決めないといけない。ここまで来るとお互いの顔を立てるのは難しい。選挙を目前に控え、首相の指導力の問題になる。解決は難しいが、週内にまとめないと、首相に決断力がないとか優柔不断だと言われる」
一方で、郵政造反組だった消費者行政担当相の野田聖子は「首相が決めるような話ではない。最終的には総務相の権限の下で行われることではないか。何でもかんでも首相が出てこなければいけないというのもおかしな話。首相を引っ張り出して首相に決めていただくというのは、閣僚としての体をなしていない」と言い放った。もともと首相に調整をわずらわせるような問題ではなく、担当閣僚で処理すべきだというわけだ。
しかし、担当閣僚自ら火をつけ、これにメディアが飛びついた。騒ぎが広がり、火は大きくなるばかりだ。そして、何もできない麻生の優柔不断が、またもやクローズアップされている。
「首相が任命した総務大臣だから、最終的には首相の責任になる」(自民党幹部)が、永田町の常識だろう。6月17日の党首討論までに決着させないと、民主党につけ込まれるだけ。麻生の決断力と首相官邸の調整能力が問われている。


