「オバマにはもう投票しない」――コロラド州デンバーの電気技師クリス・クローさん(50)は怒りに声を震わせた。世界最大の自動車メーカー、ゼネラル・モーターズ(GM)の経営破綻が秒読みに入った5月21日、GMの社債保有者グループ「60プラスボンドホルダーズ」がワシントンで開いた集会では、オバマ大統領への不信感が渦巻いていた。
GMは6月1日に連邦破産法第11条(通称チャプター11)を申請。オバマ政権は、即座にGMを実質国有化し、最大500億ドルの税金を注ぎ込んで救済する決断をした。というよりも、巨大化しすぎたGMを身請けできるのは政府しかなかったのだ。早い段階から救済の姿勢を示し、環境を整え、金融市場(ウォールストリート)への影響を最小限に抑えたオバマ政権を評価する声は少なくない。
しかし、その陰で、クローさんのような個人投資家や、中小の販売ディーラー、欠陥車訴訟原告ら「普通の人々」には、割り切れない思いを残した。「ウォールストリートからメインストリートへ」をスローガンに、富裕層よりも、普通の町に住む、普通の人々を重視する政策を打ち出して当選したオバマ大統領。「メインストリート」の人々を切り捨てた代償は小さくないはずだ。
労働組合優遇の債務削減案
4月下旬、GMのヘンダーソン最高経営責任者(CEO)は、経営を圧迫する巨額の債務を圧縮するため、「債務の株式化」を柱とする自主再建案を提示した。その上で「5月26日までに関係者の賛同が得られなければ、法的整理を選択せざるを得ない」と、債権者に「株式化への合意か、破綻か」の二者択一を迫った。
具体的には、GMが発行した無担保社債など約270億ドル分の債券保有者には、新生GMの10%の株式と引き換えに100%の債権放棄を要求。その一方で、GMに約200億ドルの医療費関係債権を抱える労働組合の債権放棄比率は50%とし、新生GMの株式39%を与える内容だった。
巨大企業GMの利害関係者は莫大な数に上り、無担保社債保有者だけでも10万人に上ると言われる。小口債権者の切り捨てには、交渉相手を絞り込み、短期間で再建を一気に進めたいというホワイトハウスの思惑が透けて見えた。しかし、子どもの教育資金や、老後の生活の備えとして、なけ無しの金を注ぎ込んだ個人投資家が、労組偏重の再建計画を甘受できるはずもなかった。
期限切れ後の5月27日、自主再建案が失敗に終わったことが判明すると、政府とGMは法的整理は不可避と判断。あらかじめ主な利害関係者の同意を取りつけてから裁判所にチャプター11を申し立てるプリパッケージド・バンクラプシー(事前調整型破産手続き)へと走り出す。