がん細胞は健康な人でも毎日3000個から5000個発生しているという。にもかかわらず、がんを発症しないのはなぜか?

 人間が持っている免疫力ががん細胞を殺傷するからだ。その重要な働きを担っているのが、免疫細胞である。

クローンT細胞で皮膚がん治療に成功、米研究チーム

免疫治療の研究は世界中で活発。写真はT細胞を使った皮膚がん治療を発表した米ワシントン州シアトルのフレッド・ハッチンソンがん研究センター〔AFPBB News

 血液中の白血球には、役割と働きが異なる様々な免疫細胞が混在している。例えば、異物を探し出し食べまくるマクロファージ、高度な連携プレーで異物を攻撃するT細胞やB細胞。

 その中で、がん細胞に対して強い攻撃力を持つのがNK細胞(ナチュラルキラー細胞)だ。

 T細胞やB細胞は、抗原抗体反応に代表されるように、複雑な連携プレーで攻撃態勢を作る、いわば訓練された軍隊組織のようなものだが、NK細胞は、野武士のような免疫細胞で、単独でがん細胞を見つけ攻撃する。

 しかも、T細胞やB細胞よりもがん細胞に対する攻撃力が強いと言われている。

がんの天敵の数を1000倍に増やす「NK細胞免疫療法」

 このNK細胞を増やし活性化することで、がんから体を守ろうというのが「NK細胞免疫療法」である。具体的には、患者の血液を50ccほど採取し、この中から白血球を分離する。さらにリンパ球だけを取り出して、無菌状態に保たれた最先端の培養施設で熟練の培養技師が約2週間かけて培養し、NK細胞の数を約1000倍に増やし、さらに活性を高めるのだ。これを生理食塩水とともに点滴で患者に戻す。

免疫療法の流れ。わずか50ccの血液を採取するだけなので体の負担は小さい

 患者側にすれば、血液採取とその後の点滴を受けるだけなので、治療としては非常に楽だ。しかも免疫細胞は自分のものなので、副作用の心配はほとんどない。発熱を伴う場合もあるが、それは免疫が賦活されることによる主作用と考えることもできる。

 横浜クリニックの青木晃院長は言う。

 「1000倍に増やしたNK細胞の数は、健康な人が持っている数をはるかにしのぎます。がん患者は、免疫細胞の活性が健康な人と比較して低下しているので、この時点で攻守逆転の戦いが始まるわけです」