(英エコノミスト誌 2025年1月25日号)
安価な中国モデルが米国の技術的リードを脅かす。
ドナルド・トランプ大統領が就任演説で約束した「わくわくするような国家的成功の新たな時代」を実現させるために米国が必要とする技術が1つあるとするなら、それは生成人工知能(AI)だ。
少なくとも、AIは次の10年間の生産性伸び率を高め、経済成長率を押し上げる。
うまくいけば、産業革命に匹敵する変化を通じて人類の力になる。
中国製AIの驚異的な追い上げ
就任式の翌日に「史上最大のAIインフラ・プロジェクト」を立ち上げる会見を開いたことは、大統領がAIの将来性を理解している証拠だ。
だが、それは世界のほかの国々、とりわけ中国も同じだ。
トランプ氏が就任演説を行ったその日にも、ある中国企業は素晴らしい大規模言語モデル(LLM)の最新版を発表した。
中国に対する米国のリードはいつの間にか、米オープンAIの「Chat(チャット)GPT」が有名になって以降で最も縮小したように見える。
中国の追い上げが驚異的なのは、これまでの遅れが非常に大きかったからであり、米国が中国の進歩を遅らせようとしていたからだ。
ジョー・バイデン前大統領の政権は、中国共産党が最先端のAIによって軍事的優位を確立しかねないと懸念していた。
そこでAIの訓練に用いるトップクラスの半導体チップが中国に輸出されるのを制限し、その代替品の製造に必要な装置の多くについて中国の入手経路を断った。
そうした防護壁の裏側で、シリコンバレーはあぐらをかいていた。
中国の研究者たちが米国で書かれたAIの論文をむさぼり読む一方で、米国の研究者が中国で書かれた論文を読むことはまれだった。
しかし、中国の最近の進歩は目覚ましく、業界を仰天させ、米国の政策当局者に恥をかかせている。
中国モデルの成功に業界全体の変化が重なれば、AIの経済学が文字通りひっくり返る恐れもある。
米国は中国製AIに肉薄される世界に備えなければならない。