(英フィナンシャル・タイムズ紙 2024年11月20日付)
ドナルド・トランプの言うことは文字通り受け取るべきなのか、それとも真剣に受け取るべきなのか――。
2016年9月発行の米アトランティック誌に掲載されたコラムで、政治ジャーナリストのサリナ・ジトーはそのような二択を提示した。
そして今、トランプが再び権力を手に入れる前から、その言葉は1期目以上に真剣に「かつ」より文字通りに受け取らなければならない。
その証拠に、次期厚生長官にロバート・F・ケネディ・ジュニア、次期国防長官にピート・ヘグセス、次期国家情報長官にトゥルシー・ギャバード、そして次期司法長官にマット・ゲーツを指名している(編集部注:マット・ゲーツは後に指名を辞退した)。
この顔ぶれからは、2期目のトランプ政権が1期目よりもはるかに過激になることがうかがえる。
また貿易政策はかなり前から、トランプの発言を真剣かつ文字通りに受け止めるべき分野だった。
保護主義は長年の個人的信条であるのみならず、すでに1期目で実践されていた。
トランプが誤解している貿易の経済学
残念ながら、トランプの発言を文字通りかつ真剣に受け止めなければならないという事実は、本人(および、その取り巻き)が貿易の経済学を理解していることを意味しない。
ケネディの唱える「ワクチン反対派」のナンセンスを信じる用意がトランプにあるのなら、自分の貿易政策について経済学者が何を考えているか気にするわけがない。
トランプは大きな間違いを2つ犯している。
1つ目は、比較優位というものに全く気づいていないこと。
2つ目は、なお悪いことに、貿易収支は2国間の貿易収支の合計ではなく総需要と総供給によって決まることを理解できていないことだ。
関税戦争を仕掛けても米国の貿易赤字は縮小しない。
それどころか、現在のような状況では特に、関税戦争はインフレ、米連邦準備理事会(FRB)の金融政策との食い違い、そして米ドルに対する信認の低下に至る公算が大きい。
何かの生産を増やしたい――例えば、トランプが望んでいるように輸入代替を進めたい――のであれば、そのための資源をどこかから調達してこなければならない。
そこで問題になるのは「どこから」「どのように」調達するかだ。
その答えは「輸出から、ドル高を介して」となるかもしれない。関税をかけると、輸入品の購入に使う外貨の需要が減るためだ。
ただこれでは、輸入品にかかる税が最終的に輸出にかかってしまい、貿易収支は改善されない。