アンドレ・モーロア(ウィキペディア)

 国難とも言われる広域大震災と原発事故という複合連鎖危機に日本が見舞われた。有事にも匹敵する危機に対する国民の英知と国家総動員体制を取る政治の決断が求められている。

 米国も日米同盟の大義とオバマ大統領が幼少時代を日本で過ごしたという誼み(よしみ)からか「トモダチ作戦」と名づけ、ロバート・ウィラード太平洋軍司令官を指揮官とする2万人弱を投入した。

 しかし、この日本人を泣かせそうな名称の作戦が普天間問題の解決遅延を容認するわけではないし、日米同盟の深化を意味してもいない。

 こうした国家非常の時期にあって、アンドレ・モーロア著『フランス 敗れたり』を思い出した。昭和15(1940)年刊の本書は、(50代以下の人は知らないであろう)馬糞紙に印刷され、ページを捲れば紙がぽろぽろ裂け落ちる状態である。

 しかし、書かれている内容は現在の日本に大きな示唆を与える。

力を伴わない文化は死滅する

 モーロアは第1次世界大戦に際して英仏の連絡将校(職業軍人でないが中尉扱い)に任じられ、多くの知友を得る。その多くは第2次大戦が始まる頃には政治指導者や軍関係指揮官になっており、大戦勃発で再び連絡将校(今度は大尉)に任じられると文字通りに縦横無尽の活躍をする。

 ここで注目すべきは、国際社会の状況が緊張をはらみつつあることがはっきりと分かっておりながら国内政治の混乱で対応処置が取れなかったフランス、国際連盟に過大の期待を寄せていた英国、並びに英仏同盟の離間に注力したドイツの動きである。

 フランスを日本に、ドイツを中国に擬すると、日米同盟の存在と中露などの今日的状況からみて、日本にとって参考とすべきことが多々あるように思われる。

 なお、ここでは細述しないが、ウィンストン・チャーチルは「英仏2国を仏人が支配する政府のもとに合同せしめ、レイノー仏内閣をして抗戦の継続をなさしめよう。両国民はそれぞれ英仏の二重国籍を有し、両国の全ての資源を共有しよう」と提案している。実現こそしなかったが、これほど同盟の本質を如実に表すものはない。

 チャーチルがモーロアに、「仏空軍はかつて世界一であったが、今日では4位か5位に転落している。代わって独空軍はかつてなきに等しかったが今では世界一に迫ろうとしている。小説や伝記を書くのをやめて、この事実を毎日評論として書いたらどうか」と勧める。