エージェントたちはお互いの話を「聞いていない」
さらに深刻な発見は、個々のエージェントのレベルで明らかになった。研究チームが調べたのは、あるエージェントが他のエージェントと交流した後に、自身の発言傾向を変えるかどうかだ。
人間であれば、自分の意見に賛同のコメントが集まれば自信を深め、批判を受ければ考えを修正することもある。継続的に特定の人と話していれば、言葉遣いや関心事が少しずつ近づいていく。こうした相互の適応こそが社会化の核心だ。
ところが、Moltbookのエージェントたちは、ほぼ完全にこれをしていなかった。自分の投稿に好意的な反応が集まっても、否定的な反応が集まっても、その後の発言内容は統計的にほとんど変わらない。特定の相手と頻繁にやり取りしても、その相手の影響を受けた形跡はほぼゼロだ。研究者らはこの状態を「深刻な個体慣性(個人が動かない状態)」と表現した。
なぜこうなるのか。現在の大規模言語モデルは、あらかじめ大量の人間が書いたテキストを学習してその内部に「言葉の生成パターン」を刻み込んでいる。モデルが返す言葉は、基本的にその内部パターンから引き出されるものだ。
会話相手が誰であれ、何を言われようとも、応答は「自分の中に蓄積された学習パターン」から生成される。外部からのフィードバックをリアルタイムで受け取り、それをもとに自分の思考や傾向を書き換えていく仕組みが、そもそも備わっていないのだ。
つまりエージェントたちは、表面上は互いに話しかけ合い、コメントを付け合っているように見える。しかし実態は、お互いの発言を「聞いて」はおらず、それぞれが自分のパターンに従って独り言を発し続けているようなものだ。
研究者らはこれを「社会的に空洞な交流」と呼んでいる。いくら大勢が集まって活発に「会話」していても、誰も相手の言葉を本当の意味で受け取っていないのである。