名声と権力、セックス、犯罪が絡み合うスキャンダル
名声、権力、セックス、そして犯罪――。エプスタイン文書はこの先何十年も波紋を呼ぶことになるだろう。
エプスタインによる女性虐待と、この男のカネの出所についての疑問がまだ大量に残っていることを考えれば特にそうだ。
エリートに対する不信感が募るこの時代、政治はすでに陰謀理論の力によって形作られている。
「トランプ連合」の忠実なメンバーであるQアノン信者らは長年、自分たちは政府、経済界、メディアに巣くうエリート小児性愛者集団と戦っていると主張してきた。
ふたを開けてみると、本当の陰謀はダボス会議でも国連でもピザ屋の地下室でもなく、マンハッタンの高級住宅街アッパー・イーストサイドのタウンハウスに住む小児性犯罪者が多用していた電子メールアカウントで企てられていた。
持てる富やお愛想、支援などの手段を講じてもうまくいかなかった時、エプスタインは相手を脅し、いたぶるのが常だった。
それまで培ってきた親密さを暴露される恐怖に変換し、それによってポンジスキームを継続させた。
テーブルの上のフォトフレームのなかには、ビル・ゲイツの署名が入った1ドル札を飾ったものもある。
先日公開されたエプスタインの電子メールには、ゲイツが性感染症に感染したことを隠そうとしていると言いたげな未送信のメッセージが含まれていた。
ゲイツはこの指摘を、自分を「罠にかけて誹謗中傷する」試みだと主張している。
元夫に言及したものを含め、新たに公開されたエプスタイン文書についてどう思うかと問われると、メリンダ・フレンチ・ゲイツは「自分がああいう汚らわしい話に関わっていないことが、とても嬉しい」とコメントした。
言語学者チョムスキーとの意外な親交
エプスタインの電子メールに登場する個人のうち最も意外感があるのは、恐らく左派の言語学者ノーム・チョムスキーだろう。
チョムスキーの名声の一端は「マニュファクチャリング・コンセント」を共著したことにあった。
視野が狭く、自己保身を図るエリートがいかにしてメディアに影響を及ぼし、会社の利益に寄与する政治的物語を作り上げていくかを研究した著作だ。
エプスタインは、そのチョムスキーが「長時間の、突っ込んだ内容になることも多々あった議論」と呼ぶものを「数多く」重ねた末に、彼の信頼を勝ち得たようだ。
電子メールによれば、2人はかつて、「対話、論戦、もてなし」のそろった「素晴らしい週末」を過ごしたことがあった。
その週末を過ごしたのは、エプスタインが2008年に有罪判決を受けてから何年も経った後のことだ。
エプスタインによる若い女性の扱いについて新たな疑惑が浮上し始めると、チョムスキーは2019年2月にエプスタインにメールを送り、「女性の虐待について浮上したヒステリア」は無視し、「直接尋ねられた時以外はいちいち反応しないように」と助言していた。
友情とカネとの間にごく弱い関連しか見られないことは、エプスタインの電子メールでは稀にしかない。
エプスタインを顧客としていたドイツ銀行は、弁護士、銀行家、学者を含む「著名な個人への主な送金取引」を詳しく記した一覧表を検察当局に開示した。
チョムスキーはこの一覧表に「高名な言語学者」として記載されている。2018年3月にはエプスタインとつながりのある口座から26万9159ドルを受け取っていた。
ドイツ銀行では、この支払いの目的を特定できなかった。チョムスキーは以前、このカネは自分のファンドからのものだと語っていた。
電子メールの記録からは、最初の妻との間にもうけた子供たちへの支払いについて、チョムスキーと妻ヴァレリアがエプスタインにアドバイスを求めたことがうかがえる。
「遠慮せずに提案してください」。ヴァレリア・チョムスキーはエプスタインにこう言った。「私たちはあなたを信頼しています」。