「シリコンの盾」から「米国の厚意」へ
これまで台湾の安全保障を支えてきたのは、同社の半導体供給が世界経済に不可欠であるために武力紛争を抑制するという「シリコンの盾」理論であった。
しかし、今回の米国への大幅な傾斜は、この理論に根本的な変容を迫っている。
ハワード・ラトニック米商務長官が「台湾の保護は大統領次第である」と言及したことは、安全保障の拠り所が製造拠点そのものから、米政権との政治的な関係性へと移行したことを示唆している。
背景には、製造委託先であるTSMCの生産ラインが逼迫し、米エヌビディア(NVIDIA)などの主要顧客が供給網の分散を求めている現実がある。
エヌビディアは次世代プラットフォーム「Rubin(ルービン)」の量産に向けた体制構築を急いでおり、地政学的リスクを最小化するために米国内での先端品生産を強く要望してきた。
今回の合意は、こうしたハイテク大手の要求を政治が後押しした形だ。
管理された依存と残された課題
一方で、この急速な米国シフトには課題も多い。米ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)によれば、製造現場では、水不足や高度な技術を持つ労働者の不足が慢性化している。
台湾国内の製造エコシステムに比べ、米国での生産はコスト高が避けられない。また、TSMCが最先端の製造プロセスを米国に導入する一方で、台湾本国では常に一世代先の技術を維持する方針も変わっていない。
米政府による対中輸出規制の影響も色濃く残る。エヌビディア(NVIDIA)のAI半導体「H200」の輸出に対し売上高の25%を徴収する措置は、中国軍の近代化を遅らせつつ米国の実利を確保する狙いがある。
米国にとってTSMCの製造ライン確保は、対中供給の「調整弁」を握り、相互依存を自国主導でコントロールするための重要なピースとなっている。
米商務省は将来的に台湾の半導体供給網の40%を米国内に移転させる目標を掲げており、今回の拡張はその第一歩といえる。
今後、2030年代半ばにかけて米国製半導体の供給能力は徐々に拡大する見通しだ。しかし、真に台湾有事の衝撃を吸収できるレベルに達するまでには、今世紀半ばまで時間を要するとの分析もある。
TSMCによる台湾一極集中からの脱却を図る試みは、米台の双方にとっての経済効率性と安全保障におけるジレンマを抱えつつ、不透明な局面を歩み続けている。
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