大きなインパクト与えたカナダ首相の演説
カーニーはまず、大国が「経済統合を武器として、関税をテコとして、金融インフラを強制の手段として」利用していると述べ、そのような世界では「統合が我々の従属の源泉になる」と指摘した。
そして、この新しい環境では国際法や観念的な「ルールに基づく秩序」に訴えても意味がない、だから我々は「もはや自分たちの価値観の力だけに頼ることはできず、我々の力の価値を頼りにしなければならない」と主張した。
カーニーの演説はインターネットを介して一気に広まった。米国の同盟国にとってのトランプ政権の意味について率直かつ明快に語りつつ、大胆にも今後の新しい道筋を示しているからだ。
この演説に目を留めた人のなかにトランプも入っていた。その翌日、演説のなかで警告を発した。
「カナダが生きていられるのは米国のおかげだ。マーク、次に考えを表明する時には、それを覚えておけ」
カーニーの演説は問題点の診断だけでなく、実際に取るべき戦略も提示していた。米国だけに頼らないようにする、というのがそれだ。
これはカナダにとっては特に厳しい難題だ。何しろ米国との貿易が全体の約3分の2を占める国だからだ。
だが、カーニーは決定的に重要なスタートを切った。この演説を行ったのは中国から戻ってきた直後で、新たな貿易協定に署名してきた。
今後は米国のほかの同盟国も北京を訪問することになる。1月末には英国首相のキア・スターマーがかねて計画されていた訪中に臨むことになっていた。
中国にとっては絶好のチャンス
中国政府にしてみれば、願ってもないビッグチャンスだ。
中国はこれまで、「間違いを犯している敵の邪魔をするな」という有名な原則に従い、西側の同盟で起きている内輪もめにコメントするのを避けてきた。
そもそも「デリスキング(依存度引き下げ)」が米国と欧州が密接に協力していた時期に中国対策として設計した戦略だったことは、悲しい皮肉だ。
今では欧州諸国とカナダがそれと全く同じやり方をほかならぬ米国に適用しようとしている。
逆説的だが、米国からのデリスキングは中国リスクを受け入れることを意味する。おまけに中国は、相互依存の武器化のパイオニアだった。
その証拠に、レアアース(希土類)や重要鉱物の精錬をほぼ独占していることを利用して、米国や日本などに圧力をかけている。
米国に加えて中国からの脅威にもさらされることについて問われると、米国からの多角化は中国一辺倒であってはならないというのがカーニーの返答だった。
カナダやそのほかのミドルパワー(中堅国)は、特に互いに結びつくことによって新しい関係の集合体を構築しなければならない。
インド、日本、韓国、中南米やアフリカの国々などによる経済の横断的なつながりのネットワークをもっと強化する必要がある、というわけだ。
このような戦略に乗ってくる国は少なくないはずだ。なぜなら、トランプの米国に乱暴に扱われていると感じる国は欧州諸国だけではないからだ。
その好例がインドだ。
ナレンドラ・モディ率いる政権による中国からのデリスキングは、どの主要国よりも徹底していた。
国のインフラ整備事業から中国のテクノロジー企業を排除し、「TikTok(ティックトック)」をはじめとするアプリも禁止した。
この決断の裏にあるのは、米国との協力を強化する大きな賭けだった。
だが、トランプ関税――そしてトランプとモディの関係の急激な悪化――を受け、インド政府は戦略の大規模な見直しを行うことになった。
ブラジルやメキシコなど、西半球を支配しようとするトランプの攻撃的な新戦略に警戒心を抱く多くの中南米の国々についても同じことが言える。