全社AI変革の文脈と技術的基盤

 この動向は、2025年を通じて推進してきた全社的なAIシフトの延長線上にある。

 ジャシーCEOは同年6月の従業員宛て書簡で、AIエージェントを「一生に一度の変革的テクノロジー」と位置付けた。同時に、業務効率化と引き換えに従業員数の削減も見据えた抜本的改革を宣言した。

 アマゾンは2025年を通じて、自社の優位性を構築するための布石を打ってきた。

1. 信頼性の担保(ニューロシンボリックAI)

 8月に本格導入した「ニューロシンボリックAI」は、AIの弱点であるハルシネーション(幻覚)を抑制する。

 この技術はショッピングアシスタント「Rufus(ルーファス)」などの精度向上を支えている。外部エージェントとの連携においても、正確な取引を保証する重要なインフラとなるだろう。

2. 出品者支援の自動化(セラーアシスタント)

 9月に発表したエージェント型セラーアシスタントは、在庫管理や広告制作を自律的に代行する。

 これは、アマゾンが「エージェントの利便性」を熟知し、プラットフォーム内部での価値創出に成功している証左でもある。

3. 顧客体験の再発明

 5月にテストを開始した音声要約機能「Hear the highlights」や、他サイトの商品も購入可能な「Buy For Me」など、自社エージェントの高度化を急ピッチで進めてきた。

「通行料」と「顧客接点」のトレードオフ

 アマゾンが他のAI企業と提携を模索する背景には、2030年までに米国で1兆ドル(約156兆円)の収益を創出するとされる市場規模がある。

 消費者がチャットボット内で購買を完結させるようになれば、同社は顧客との接点を失いかねない。

 米CNBCによれば、米調査会社フォレスター・リサーチのアナリストは、こうした事態によって「小売業者はAI企業のインフラを利用するための通行料を支払うリスクを負うことになる」と指摘する。

 一方、アマゾンが持つ膨大なレビューや商品データは、AI各社にとっても魅力的である。同社はこれらを武器に、新たな戦略への移行を検討しているとみられる。

 具体的には、外部エージェントにカタログデータを提供しつつ、決済や物流機能を自社にとどめる手法だ。

 これは、競合のカナダ・ショッピファイや米ウォルマートが先行して進めている「フレネミー(友であり敵でもある)」戦略とも重なる。