AIエージェントが連携したパンデミック対策の中身

 香港科技大学(HKUST)などの機関に所属する10人の研究者らは今年1月、「大規模言語モデルエージェントを政策立案アシスタントとして用いた協調的パンデミック対策(Coordinated Pandemic Control with Large Language Model Agents as Policymaking Assistants)」という論文を発表した

 タイトルから想像できるかもしれないが、彼らが提案したのは、世界の主要地域の行政担当者に「政策づくりの補助役」としてLLMエージェント、流行りの言葉で言えば「AIエージェント」を与え、地域同士が情報を共有しながら協調してパンデミック対策を組み立てられるようにするという仕組みである。

 彼らの問題意識は明確だ。パンデミック対策は行政区ごとに別々の意思決定をしているが、実際には人の移動によって地域同士が強く結び付いている。

 ある地域が対策を強めても、隣の地域からの人々の流入が続けば感染が持ち込まれ、1つの地域が対策を緩めれば周辺へ影響が波及する。にもかかわらず、現実の政策は縦割りや情報遅延などの要因もあり、地域間で協調しにくく、結果として後追いになりがちだ。そこで彼らは、AIエージェントに政策連携を支援させてはどうかと考えたのだ。

 具体的には、各地域(今回は米国の各州)に1体ずつエージェントを割り当て、地域固有の感染状況を見つつ、他地域と通信して相互依存(人の移動による感染の持ち込み)を織り込む。加えて、感染拡大シミュレーターと実データを組み合わせ、「政策→シミュレーション→次の政策」というループで政策を検討するという。

 結論から言ってしまうと、COVID-19に関する現実のデータを使った実験の結果、この仕組みは非常に有効であるとの結論に達したそうだ。個別州レベルでは、現実の結果と比較して累積感染が最大63.7%、死亡が最大40.1%減少し、複数州を集計しても感染39.0%、死亡27.0%減少した(あくまでシミュレーション上の話だが)と報告されている。

 パンデミック対策の難しさは、感染症そのものの複雑さだけではない。本質的な困難は、行政区をまたぐ「相互依存」にある。