AIは人間の手によって磨かれていく

 ここで見落とされがちなのが、人の関与の重要性です。

 AIは自動で完成する技術ではありません。データを更新し、出力を確認し、改善を続ける人の手が必要です。

 デジタル庁では、AIを育てる技術と表現しています。

 従来の情報システムのように、一度作って終わりではありません。使いながら育てる前提で運用することが、成果を左右します。

「源内」という名前にも、その思想が表れています。

 この名称は、江戸時代の発明家である平賀源内に由来しています。
現場で工夫し、試し、改良を重ねる姿勢を重ね合わせた命名です。

 今後、「源内」はデジタル庁だけでなく、他の府省庁にも段階的に展開される予定です。

 これにより、行政全体でAI活用の共通基盤が形成されていきます。個別最適ではなく、全体最適を目指す設計と言えるでしょう。

 企業経営の視点で見ると、ガバメントAIは他人事ではありません。

 行政がAIをどう使うかは、民間のAI投資や活用の前提条件にもなります。政府が安全な使い方を示すことで、企業も安心してAIに取り組めるようになるでしょう。

 また、行政がAIを前提に制度を運用し始めれば、企業側の業務設計にも影響が及びます。

 行政に対しての申請、審査、報告といったプロセスも変わる可能性があるでしょう。経営者は、その変化をコストではなく、構造転換として捉える必要があります。

 ガバメントAIの本質は、技術導入の話ではありません。人が減っても社会を回し続けるために、制度をどう設計し直すかという話です。AIはそのための手段にすぎません。

 冒頭で述べた結論に立ち返ります。

 ガバメントAIは、行政を楽にする魔法の道具ではありません。行政という仕組みを、次の時代に持ち越すための再設計の起点になります。

 経営者にとって重要なのは、この動きを技術ニュースとして眺めることではありません。

 行政がAIを前提に動き始めたとき、自社の業務や判断はどう変わるのか、早急に考え始めなければなりません。

筆者作成