国内キングサーモンの完全養殖に成功

 北海道にサケマスが戻ってこないのであれば、養殖するしかない。今年、藤本貴史・北海道大学大学院水産科学研究院教授らの研究グループは、函館沿岸で採捕されたキングサーモン(マスノスケ)の卵と精子の人工授精によって得られた個体を親魚として、国内ではじめての完全養殖に成功した。

 現在、キングサーモンはもっぱらニュージーランドなどからの輸入に依存しているが、将来的には函館産のキングサーモンが生産される計画である。

 この養殖プロジェクトには、内閣府の地方大学・地域産業創生交付金事業の一環で、函館市に国庫から12億円が交付され、北海道大学を中心に函館市内の大学・高専が参加している。

 日本国内でおもに養殖されているのは、トラウトサーモン(ニジマス)という外来種だが、函館・道南地域では、トラウトに加え、サクラマス(木古内町)やキングサーモン(函館市)といった在来種の養殖魚を開発している。

 キングサーモンはまだ開発途中だが、トラウトの函館サーモンは販売されている。函館サーモンはノルウェー産に比べ3倍ほどの価格だが、売り上げは好調だ。函館に近接する八雲町、知内町などでもサーモン養殖は増加していて、将来的にはシンガポールなど東南アジアへの輸出も進むだろう。

 イカ、ホタテ、ウニ、コンブの不漁と、暗いニュースが多い中、函館の水産業は変わりゆく海洋環境に適応すべく努力を重ねている。

安木新一郎(やすき・しんいちろう)
函館大学商学部教授、択捉島水産会理事
専門:ロシア経済、貨幣史
略歴:昭和52(1977)年兵庫県生まれ。大阪市立大学大学院経済学研究科後期博士課程単位取得満期退学。経済学修士。外務省在ウラジオストク日本国総領事館専門調査員などを経て、2023年より現職。
著書:『ロシア極東ビジネス事情』(東洋書店、2009年)。『貨幣が語るジョチ・ウルス』(清風堂書店、2023年)など多数。