外省人の喪失感、強まる中国回帰

安田:台湾に取材に行った際、外省人系の人や国民党に縁のある人からは「自分たちの知っていた中華民国が失われた」と嘆いている声をよく聞きます。大陸にルーツを持つ中華民国としての顔を捨てることを、逆に嫌がる人もいる。これは台湾の国民全体から見ると少数派なんですが、採るに足らない少数意見として無視できないほどには多くいたりもする。難しいですね。

1949年の中華人民共和国成立後に、中国大陸から台湾に移住した人々と、その子孫

台湾の国民党の主席に親中派の鄭麗文(ていれいぶん)氏が就任した(写真:AP/アフロ)台湾の国民党の主席に親中派の鄭麗文(ていれいぶん)氏が就任した(写真:AP/アフロ)

劉:そこに台湾の複雑さがあります。外省人の中には、内戦で国民党とともに台湾へ移ったり、中には半ば強制的に連れてこられたりした人もいました。彼らは「中華民国のために戦う」という思いを支えに生きてきた中華民国のエリートや兵士たちです。

 しかし民主化によって、多数派の本省人が政治の中心に立つようになると、外省人は一気にマイノリティとなり、「自分たちが信じてきた国が変わってしまった」という喪失感を抱くようになりました。台湾アイデンティティを大事にする一方で、こうした歴史的経緯から疎外感を覚えている人々をどう包み込むかも台湾社会が抱える重要な課題だと思います。

安田:今後重要となるのが2028年の総統選挙です。

劉: 2020年の総統選を巡っては、2018年の終わり頃、蔡英文(さい・えいぶん)は1期で終わると見られていました。しかし、2019年に習近平氏が「一国二制度」を意気込み、蔡英文が強く反論したことで「蔡英文の対応はしっかりしている」という評価が高まり、中国当局による香港社会への強硬化で台湾社会で対中警戒感が高まったことも追い風となり、1年かけて逆転して再選につながりました。

 この経験から、中国が強硬姿勢を見せれば民進党が有利になるという見方が従来ありましたが、今回は事情が異なります。いまの米国トランプ政権は、中国に融和的で台湾には冷淡な姿勢をとっています。そのため台湾では、米国でさえ中国と融和しているのだから、台湾も衝突を避けた方がいいという議論も出てきています。

 もし中国が軍事演習など圧力を強めても、アメリカが冷淡な反応しかしなければ、結局米国は助けてくれないから対中融和路線の政党を選ぶべきだという世論が高まることもあり得ます。そうなれば逆に民進党が不利になる可能性もあり、これまでと全く違う展開が起こり得るわけです。つまり、2028年選挙がどう動くかは、米中関係の変化も大きく影響し、まだ読めません。