『GO』の中でも、冒頭の疾走感あふれる8分間のシークエンスは特に素晴らしい。セリフで説明するのではなく、映画にしかできない表現方法で映画の本質をずばりと描く。塚本信也監督のカルト映画『鉄男』(1989年)へのオマージュもあり、映画ファンにはたまらないコマ撮りのシーンもあります。行定勲監督は当時33歳で初のメジャー作品。脚本の宮藤官九郎は31歳。原作の金城一紀も同世代でした。若いエネルギーに満ち溢れた作品なのです。

 また、これも落語好きで知られる宮藤官九郎のアイデアなのだと思いますが、『GO』で柴咲コウが初めて登場するシーンでは昭和の大名人である三遊亭圓生の落語「紺屋高尾」が流れます。染物屋(紺屋)の奉公人が「絶世の美女」である高尾太夫に一目惚れするという演目です。窪塚は音楽がうるさいクラブの中で落語を聴いているのですが、これがもの凄くカッコいい。落語をこれだけ効果的に使った映画は他にはないと思います。

 近年だと、妻夫木聡が在日コリアン弁護士・城戸章良を演じた『ある男』(2022年)も傑作です。自分の名を捨て、他人として生きることを選んだ男を描いています。妻夫木聡は決して多くを語らないのですが、在日コリアンがこの日本社会で日々抱えている悩み、心の襞の一つ一つを繊細に表現している。表情、顔のうつむき加減、身のこなし、歩いている時の後ろ姿、背中…で表現するのです。妻夫木聡は本当に素晴らしい俳優だと感じました。共演した柄本明も「(妻夫木聡は)良い俳優になった」と賞賛していました。

 最後は日本映画を取り上げましたが、本記事では私が見てきた映画を通して韓国映画の魅力を紹介しました。韓国映画は見て面白いだけでなく、韓国の政治や文化、社会について広く深く知ることができます。

 日本は韓国と似た社会構造を持っています。同じアメリカの同盟国で、資本主義国、民主主義の国であり、少子高齢化や高い自殺率など多くの社会課題を共有しています。韓国社会について知ることは、日本社会をよりよく知ることにもつながります。ぜひ韓国映画を多角的に楽しんでほしいと思います。

【筆者からのお知らせ】
 私が好きな映画30本を紹介した書籍『映画で知る韓国』を四六社より刊行しました。本記事で取り上げた映画を含め、26本の韓国映画、4本の日本映画を解説し、特に説明が必要な項目にはコラムを書き加えています。ぜひお手に取ってもらえたら幸いです。

『映画で知る韓国』(韓光勲著、四六社発行)