米軍を弱体化させる「戦争長官」の作戦
かくして壮大な大失敗に終わるリスクが高まりつつある。
トランプにより肩書きを「戦争長官」に変えられたピート・ヘグセスは、ペンタゴン内に設けられた分別のガードレールを取り除くのに忙しい。
ヘグセスについては、ベネズエラの麻薬密輸船と思しき船舶への最初の攻撃で「皆殺しにせよ」と命じた疑惑にばかり注目が集まっている。
だが、米国ではこれまで、文民の指導者はもちろん兵士でさえ戦争犯罪で起訴された事例はほとんどない。
1968年にベトナムのソンミ村ミライ部落でベトナムの文民を数百人撃ち殺す事件を主導した将校は、わずか3年の自宅監禁で解放された。
乗組員が――本物の戦闘員であることはもとより――「麻薬テロリスト」である明らかな証拠を示すことなく小舟をなき物にしようとするヘグセスの作戦は、ほとんどの点で違法だ。
だが、ヘグセスが起訴を免れることはほぼ確実だ。
それ以上に深刻なのは、ヘグセスが米軍のプロ意識にマイナスの影響を及ぼしていることだ。
ヘグセスは戦闘ルールにウォーク(意識高い系)の観点から課された制約に不満を表明することでキャリアを築き、トランプの目に留まった人物だ。米軍幹部800人に対し、もっと男らしくなる方法について説くことまでした。
米軍6軍種トップのうち2人を、さらには統合参謀本部の議長と副議長も交代させたトランプとヘグセスは国防総省の頂点の忠誠を確保した。
疑問を呈する人の大半は主流から外すか、退役に追い込む。法律顧問はパージされた。
米軍が苦労の末に獲得した多様性を蔑ろにしたことも組織の士気をさらにぐらつかせている。
数十年かけて培われたエスプリ・デ・コー(団結心)は易々と破壊されつつある。ヘグセスを解任したところで、これらをなかったことにはできない。
アイゼンハワーの警鐘
米軍の戦闘態勢にはリアルな打撃が及んでいる。すぐ目の前には危険も迫っている。
今日の米国は、軍幹部からほとんど尊敬されていない大統領と政治任用の文民に率いられている。米軍の将官たちには、法律は弱虫のためにあるとのメッセージが発信されている。
将官から大統領になったドワイト・アイゼンハワーは「計画に価値はない、計画を立てることがすべてだ」と語ったと伝えられる。
トランプがベネズエラの体制転覆を目指す場合、それはヘグセスが立てた計画をベースに行われることになる。ヘグセスのミームは間違いなくパンチの効いたものになるだろう。
(文中敬称略)