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(英フィナンシャル・タイムズ紙 2025年11月27日付)
筆者は中国本土を先日訪れた際、いつの間にか同じこと繰り返し、現地で会う経済学者、科学技術者、そして経営者たちに全く同じ質問をしていた。
「貿易はモノの交換だ。そちらが何か価値のあるものをこちらに提供してくれる。そうしたらこちらがそのお返しに、何か価値のあるものを渡さなければならない。ということは、これから先、中国は世界のほかの国々から何を買いたいと思っているのか」
その回答は興味深く、参考になるものだった。
何人かは「大豆と鉄鉱石」と答えたが、それではあまりヨーロッパ人の助けにならないと気づいた。
ルイ・ヴィトンのハンドバッグが人気だと言いながら、急成長している中国の高級ブランド製品の輸出見通しについて語る人もいた。
「高等教育」という答えも多かった。ただし、これも西側の教育機関より北京大学や清華大学の方が入るのは難しいし、勉強も厳しいという但し書きが時折ついた。
数人の経済学者は、この問題について以前考えたことがあったのだろうか、全く違う話に飛んだ。「だからこそ、中国企業が欧州に工場を作るのを認めるべきなんだ」と彼らは言った。
順を追って考えると、筆者の質問への答えが明らかになる。要するに、買いたいモノは何もないということだ。
中国の自給自足が意味すること
中国には輸入したいモノがない。中国製品より質が良くて安いモノなどどこにもないだろう。外国に頼らねばならないモノがあるとしても、頼るのは必要最小限にとどめたい。
確かに、中国は今のところ半導体、ソフトウエア、民間航空機、最先端の産業機械を購入する顧客だ。
だが、この顧客は、学生として学んでいる研修医のようなものだ。中国はこれらのモノすべてを国内で開発しつつある。間もなく自ら製品化し、輸出することになる。
自給自足への中国の願望について意見の一致を見た後には、「だからと言って中国を責めることはできないはずだ」と会話が続くのが普通だった。
「米国は私たちを封じ込め、抑え込む兵器として輸出規制を行っている。中国がどれほど強い不安を抱いているか理解してもらわないと困る」
なるほどもっともな話で、それを責めるつもりはない。だが、そう言われると次のような疑問がわいてくる。
筆者が中国で会った人々に尋ね、この場で読者にも聞いてみたい疑問だ。もし中国が私たちほかの国々との貿易で何も買いたくないとするなら、私たちは一体どうすれば中国と貿易ができるのだろうか――。
これは脅しではない。単に事実を述べているだけだ。
欧州、日本、韓国、米国の労働者は雇用を必要としている。私たちはこれまでの経済発展を逆回転させたくない。それに、たとえそれが気にならなかったとしても、輸出をしなければ、私たちはいずれ中国に輸入品の代金を支払えなくなる。
違う文脈では、中国政府の政策立案者たちはこの事実に気づいており、これまでに受け入れた米ドル建て資産の山が減価したりデフォルト(債務不履行)になったりするのを恐れている。