DNAがゆるんでくると、読み取りエラーが起こる

 今井先生はNMNの第一人者として最近は注目されていますが、彼の大きなテーマは老化のメカニズムです。

 彼は今から25年以上も前に、老化の原因はDNAの遺伝情報の読み取りが、うまく制御できなくなることにあるのではないかという仮説を提唱しています。

 本来読み取られてはいけないDNA情報が読み取られてしまうのが老化の原因ではないかと考えたのです。

 先生の研究を理解するために、DNAの読み取りとは何かについて説明しましょう。

 人間の体は37兆個の細胞からできていて、細胞は約10万種(異説あり)のたんぱく質からできています。そのすべてのたんぱく質の設計図がDNAに入っています。

 これらは、データにすると長さ30億もの文字列で、自分のすべての遺伝子の情報が書かれています。

 DNAはすべての細胞がそれぞれ持っています。

 見た目は二重らせん構造をした長い糸のような形をしていますが、細胞内でDNAは糸巻きのような形をしたたんぱく質(ヒストン)にきつく巻きついています。

 DNAは、このようにパッキングされているので、巻きついている状態ではDNA上の遺伝情報を読み取ることはできません。

 私たちの体内でたんぱく質がつくられる際には、これを部分的にほどき、そこに保存されている遺伝情報を読み取っています。設計図の必要な箇所だけを読み取っているんですね。

 時間がたつと、このDNAのパッキングがところどころで勝手に緩み、細胞が本来の働きができなくなってしまう状態に陥ります。 これこそが老化を引き起こしていると今井先生は考えたわけです。

 彼は、この現象について、コンピューターシミュレーションの専門家と実験しました。そして、老化のブレーキ役となる物質が、時がたつにつれ、働かなくなることで細胞が老化することを示しました。

 この老化のブレーキ役が働かなくなることでDNAのパッキングがゆるみ、遺伝子情報が勝手に読みとられてしまう可能性を指摘したのです。

 詳細は当時はわかりませんでしたが、この老化のブレーキ役が次の項目で説明するサーチュインです。