飲酒運転で韓国のイメージが悪化

 韓国では飲酒運転を糾弾する特集がテレビ番組でも組まれている。JTBCというケーブルテレビ局が2022年9月から放送している「ハン・ムンチョルのブラックボックスリビュー」という番組だ。道路交通法の専門家として検事と弁護士を経験したハン・ムンチョルが司会として出演し、韓国の交通違反、交通事故の事例を検証し、事故防止を啓発する。

 その番組で2年前に流れた映像は衝撃的だった。ソウル郊外の街で深夜、出前配達の帰りに信号待ちをしていたバイクに、後方から時速100キロを超える猛スピードで車が突っ込み、その威力でバイクは50m、乗っていた30代の男性は30m飛ばされた。車は一旦停止したものの運転手は何の処置も施さず、直ちに現場から立ち去ってしまった。結局、男性は死亡。しかも車の運転手は若い現役の医師で、飲酒による居眠り運転だったのだ。

 これほどまでに根強い飲酒運転の背景には、激しい競争社会がありそうだ。ハンギョレが昨年伝えているが、韓国では「お酒を飲める人ほど仕事の能力がある」という価値観が根強い。そのため、お酒を飲む機会がないと人間関係に支障が出るとまで考えられている。

 つまり飲酒には、仕事での人間関係の構築と、さらには、競争社会で生き残るために自分の能力を相手に見せるという目的もあるのだ。

 車で通勤しても夜に会食の約束があれば、飲食店まで車で移動。そして「運転しても大丈夫」と甘い自己判断を下して飲酒運転してしまう。

 飲酒運転がこのまま横行すると、「韓国」という国のブランド力の低下にもつながりかねない。韓国メディアの報道からは、そんな危機感が垣間見える。

 ソウル経済は「韓国は安全な国だと思っていたけど、(この事故には)驚いた」という、フジテレビの番組で紹介された日本人のコメントを引用。東亜日報は「K-運転」という言葉で、飲酒運転を含むマナー違反が横行する韓国の道路事情を揶揄(やゆ)しながら警鐘を鳴らしている。

 気になるのは、こうした自浄作用は、日本が韓国の交通マナー事情を批判的に取り上げたことが契機となっている点だ。その1週間前の10月25日にも飲酒運転により30代の韓国系カナダ人男性が死亡する事故があったが、そのことが大きく報じられたのは日本人母娘の事故があった後だ。それまでは批判の目はほぼ向けられていなかった。

 韓国で飲酒運転が減るためには、国内で自浄作用がいっそう高まり、維持される必要がある。だが、はたしてそれがどれほど可能なのか。大統領やその経験者家族まで飲酒運転の過去があるほど根深いとなると、そう簡単ではないかもしれないとの不安がよぎる。

平井 敏晴(ひらい・としはる)
1969年、栃木県足利市生まれ。金沢大学理学部卒業後、東京都立大学大学院でドイツ文学を研究し、韓国に渡る。専門は、日韓を中心とする東アジアの文化精神史。漢陽女子大学助教授。