定数削減の歴史と課題、日本の議員数は本当に多いのか

 歴史をひも解くと、衆院の定数はこれまで何度も是正されてきたことが分かります。戦後、468人でスタートした新生・日本の衆院はその後、人口の増加や高度経済成長に伴う大都市圏への人口流入などにより、都市部を軸に「定数増」で対応してきました。米国から返還された沖縄県、および鹿児島県の奄美群島区も加わるなどし、ピークの1986年には512人まで定数が膨らみました。

 高度経済成長が終わり、バブル経済も崩壊すると、「緊縮」や「身を切る改革」の波は政界にも及びます。その結果、1990年代半ばになると、政治改革の一環として選挙制度の改変や議員定数の削減が実施されるようになりました。1996年の衆院選から実施された「中選挙区制廃止・小選挙区比例代表並立制」の導入です。

 1980年代末から政界は、リクルート事件などをめぐって自民党の竹下登内閣が崩壊するなど「政治とカネ」の問題で大揺れでした。その焦点は、当時も企業団体献金の禁止でしたが、政治改革を議論するなかで論点は次第に「日本は二大政党制が実現しておらず、政権交代がない。それが政治腐敗の原因だ」とする方向に変わっていき、最終的には「多党乱立の原因」とされた中選挙区制の廃止に至ったのです。

 これ以降、定数是正と言えば、定数の「削減」が主体になってきました。維新による今回の50程度の削減が実現すれば、いよいよ定数の400人割れ・300人台も視野に入ってくることになります。

図表:衆院議員 定数の移り変わり(フロントラインプレス作成)

 国会議員の適切な人数とは、どの程度なのでしょうか。
 
 衆院の465人、参院の248人を合わせると、日本の国会議員定数は713人で、人口の割合で見れば、およそ17万人に1人です。「議会の母国」である英国は約4万7000人に1人、フランスは約7万3000人に1人。主要国(G7)で比較すると、下から2番目という少なさになります。日本が飛び抜けて多いわけではありません。

 臨時国会で議論される今回の衆院定数削減については、国会の外でも懸念が出ています。「地方の声が国政に届きにくくなることは何としても避けていただきたい」(吉村美栄子・山形県知事)、「人口集積の少ない地域、こういった所の意見が結果的に国政に反映されにくくなるのが最大の問題」(浜田省司・高知県知事)。また、政治学者らからも「少数意見、多様な意見の切り捨てになりかねない」という声が途切れません。

 臨時国会で早々と成立を図るというスケジュールありきではなく、政治改革の根本を見据えた議論が必要とされています。

フロントラインプレス
「誰も知らない世界を 誰もが知る世界に」を掲げる取材記者グループ(代表=高田昌幸・東京都市大学メディア情報学部教授)。2019年に合同会社を設立し、正式に発足。調査報道や手触り感のあるルポを軸に、新しいかたちでニュースを世に送り出す。取材記者や写真家、研究者ら約30人が参加。調査報道については主に「スローニュース」で、ルポや深掘り記事は主に「Yahoo!ニュース オリジナル特集」で発表。その他、東洋経済オンラインなど国内主要メディアでも記事を発表している。