帰来せず

 出奔後、ドラマの銀二郎は東京で暮らしていたが、為二がいたのは大阪だった。

 為二が大阪にいるとの噂を耳にしたセツから使いの者が送られ、帰ってくるように頼んだが、為二は聞き入れなかった。

 諦めきれないセツが旅費を工面し、自ら大阪まで迎えにきたが、為二は冷言を浴びせるだけだった。

 セツはこの時、橋の上から投身しようとまで、思い詰めた。だが、家族の顔が浮かび、思いとどまったという。

 セツは松江に戻り、為二との婚姻関係を解消した。

 セツには辛い出来事であるが、為二の置かれた状況を考えると、責められないのではないだろうか。