自民党の高市早苗新総裁(写真:代表撮影/ロイター/アフロ)
(尾中 香尚里:ジャーナリスト、元毎日新聞編集委員)
立憲が推す「給付付き税額控除」に前向きな高市新総裁
自民党の新総裁に高市早苗氏が選出された。
女性初の党総裁とか、排外主義的な発言とか、裏金議員の復活など政治改革に消極的な姿勢とか、「ワーク・ライフ・バランスを捨てる」発言とかは、他の論者の皆さんが山ほど語ってくれそうなので、ここであえて繰り返そうとは思わない。
筆者が注目したいのは、高市氏が総裁選で訴え、にわかに政界の注目を集めている「給付付き税額控除」という経済政策だ。一見地味な話題だが、高市氏の今後の党運営や「政権」運営の難しさについて考える時、このテーマは結構役に立つと思う。
給付付き税額控除とは、所得税額から一定の金額を差し引き(控除)、所得が少ないため控除の額が納税額を超えた場合、その分を現金で給付する制度だ。
ポイントは「減税と給付のセット」ということ。単なる減税の場合は所得の高い層ほど多くの恩恵を受けがちだが、給付付き税額控除は、納税額が少なく所得控除ができない低所得者層には減税の代わりに給付を行うため、中・低所得者ほど恩恵を受けやすい。必要な財源も比較的少なくてすむ。
もともと民主党政権が実現を目指してきた制度であり、所属議員の多くが民主党の流れを汲む立憲民主党は、それを受け継ぐ形で現在も強く主張している。自民、公明、立憲の3党は9月、給付付き税額控除の制度設定を議論する新たな協議体を設置し、自民党の新総裁にも引き継ぐことで合意した。
給付付き税額控除に関する会談を前に握手する自民党の森山幹事長(左)と立憲民主党の安住幹事長(写真:共同通信社)
その新総裁・高市氏は、給付付き税額控除に積極的な姿勢を見せている。
総裁選では「低所得、中所得の方に最もメリットがある」と主張し、新総裁選出後の記者会見でも、党の政調会で議論するよう指示する考えを示した。
冒頭に挙げたように、政権政党のトップとしては看過できない点が多々ある高市氏だが、この1点に関してだけは、筆者はその姿勢を評価している。ただ、高市氏が給付付き税額控除の実現を目指せば、そのことが自身の党運営や、新首相となった場合の政権運営を難しくしてしまう可能性がある。2点指摘してみたい。