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(英フィナンシャル・タイムズ紙 2025年9月27・28日号)

米海軍ノーフォーク基地に停泊中の空母「ハリー・S・トルーマン」上で演説するトランプ大統領(10月5日、写真:AP/アフロ)

 9月25日夜、ジェームズ・コミーが連邦大陪審によって起訴されたことに反応するドナルド・トランプは上機嫌だった。コミーは何年も軽蔑してきた元連邦捜査局(FBI)長官だ。

「米国における正義だ!」

 トランプはソーシャルメディアで快哉を叫び、自身にとって最大級の政敵に手続きの妨害および虚偽の証言の容疑がかけられたことを祝った。

 コミーの刑事訴追――トランプはその実現を強く望んでおり、担当検事をつい数日前に唐突に交代させたばかりだった――は、トランプが2期目の任期の中心に据えている司法への報復作戦が恐ろしいほどエスカレートしていることを示している。

 また、トランプが過剰な自信を持っていることも浮き彫りにする。

 MAGA(米国を再び偉大にする)運動の右派の政策を、強い決意と従来の制約への侮蔑、そして果てしないショーマンシップをもって押しつけようとしているからだ。

従来型政治の重力に逆らう過激なアプローチ

 司法省によるコミーの訴追は医薬品からトラックに至る数多くの輸入品目に新たな関税をかける新政策の発表と同じタイミングで明らかにされたが、その数日前には、トランプが妊娠中の女性に対し、広く使われている鎮痛剤の服用をやめるよう呼びかけていた。

 自閉症とつながりがあるというのがその理由だ(ただし、その説は立証されていない)。

 殺害された保守活動家チャーリー・カークの追悼式が9月21日にアリゾナ州で行われた際には、笑みを浮かべながら「私は敵が嫌いだ。連中の幸せや成功は望まない」と言った。

 支持率はぱっとせず、景気も弱々しい。そのうえ中間選挙があと1年強に迫っている。

 そんな時期にあっても、トランプは権力を濫用しているとか自分の手札を過大評価していると思われるリスクを取ることをいとわない。

 なぜか。それは、右派と保守の有権者からなる盤石な支持基盤を刺激するためだ。

 ソーシャルメディアと「バイブ(雰囲気やノリ)」が公人としての活動の大部分を左右する時代にあって、トランプは米国中の関心を独占し続けることができれば従来型の政治の重力に逆らうことも可能になると思っているように見える。

 共和党の古参ストラテジスト、ダグラス・ハイは「彼は全速力で走っている。自分ができることの限界を試している」と指摘する。

 ジョージ・ワシントン大学の教授で政治史家のマット・ダレクは「トランプとその仲間は、かなりイデオロギー色の濃い政策の法制化を強く決意しているように見える。(中略)支持されるかどうかはほとんどお構いなしのようだ」と付け加える。