闇バイトへの注意を呼びかける千葉県警のパネル(写真:共同通信社)
秘匿性の高いSNSアプリを駆使する正体不明の詐欺集団を「トクリュウ」と呼ぶ。正式名称は「匿名・流動型犯罪グループ」。指示役が闇バイトを募って実行役として使い、実行役が逮捕されても警察はなかなか指示役まで辿り着くことができない。
2024年12月、露木康浩前警察庁長官は警察の総力をあげてこうしたインターネットを介した詐欺を取り締まると大号令をかけた。トクリュウはいかに闇でつながり、どうすれば効果的に取り締まることができるのか。『闇バイトの歴史 「名前のない犯罪」の系譜』(太田出版)を上梓した作家の藤原良氏に聞いた。(聞き手:長野光、ビデオジャーナリスト)
──2013年に登場したメッセージ・アプリ「テレグラム」の登場が、トクリュウ増加の重要なポイントだったと書かれています。
藤原良氏(以下、藤原):初期のテレグラムはとても秘匿性が高く、警察でも内部のやり取りにアクセスできませんでした。「シークレットチャット」という機能があり、指定したメンバー以外はやり取りを見ることができないのです。警察が求めても、テレグラムはその内容を開示しませんでした。
外には絶対に漏らせない、極めて重要な情報を含んだやり取りをする場合にはこうしたアプリは便利で、政治家、軍人、ビジネスマンなど、さまざまな人たちがテレグラムを介してやり取りをしたと思います。それ自体は悪いことではないのですが、犯罪者にとってこんなに都合のいい連絡ツールはありません。
さまざまな犯罪に利用されたこともあり、2024年8月に創業者兼CEOのパベル・ドゥーロフ氏がパリで逮捕されました。情報の開示に関して議論は続いているものの、テレグラムも正当な理由があれば、警察などに情報開示する姿勢を見せるようになりました。
──テレグラムの前には、1999年に開設された匿名掲示板「2ちゃんねる」も、犯罪組織やそこに入りたい人たちの出会いと連絡の場になっていた、と書かれています。
藤原:これはインターネットの面白さの一つだと思いますが、名前も顔も出さずにハンドルネームを使って、言いたいことだけ言って情報交換ができる。それがSNSやメディアサービスが次々と普及していった理由だと思います。その中で、最も盛り上がったものの一つが2ちゃんねるです。
こういう言い方をすると怒られるかもしれませんが、道徳心の欠けたやり取りが発生する場になりがちというか、下ネタから誹謗中傷、真偽不明の裏話まで、他のメディアでは批判や取り締まりの対象になるようなやり取りが、なぜか2ちゃんねるでは公然と語られていました。
そういう中で犯罪者同士が出会ったり情報交換をしたりすることもありました。実際に逮捕された人たちが「2ちゃんねる」で出会った例も報告されています。
ただ、その後に出てきた「テレグラム」と異なる部分は、情報の発信元を警察が特定しようと思えば、特定できたということです。最初のうちはそうした部分が曖昧だったので、ハンドルネームだけでずっと匿名で情報を発信できると犯罪者側が思ったのでしょうね。
──秘匿性の高いプラットフォームがなくなれば、あるいは、そうしたアプリの運営者が、要請があれば特定のやり取りを警察に公開するという姿勢になれば、トクリュウは相当に仕事がやりづらくなるということですね。
藤原:トクリュウの特徴は、まさにそうしたプラットフォームを駆使してやり取りを辿れないようにすることにありますから、そういう場所がなくなれば、相当に活動は弱まると思います。
