AIエージェントを手にした人は、不正を働きやすくなることが実験で明らかに(筆者がBing Imageで生成)
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(小林 啓倫:経営コンサルタント)

 人類は新しいテクノロジーを手にするたび、それを正しく、目的通りに使う一方で、悪用して不正を働くということもしてきた。

 たとえば、フランスでは18世紀末から19世紀にかけて、クロード・シャッペという人物が考案した「視覚的電信システム」による通信が行われていた。これは大きな3枚の長方形の板から構成された装置で、この板の組み合わせ(合計98パターンを表現できたという)によって特定の信号を表し、それを遠くから見ることによってメッセージを伝えるものだった。いわば「のろし」の進化系と呼べるテクノロジーだろう。

19世紀当時の設計図を基に復元された「視覚的電信システム」の通信局

 いまから見ればまったくアナログな仕組みだが、研究によれば、最盛期にはフランス国内で556局が開設され、信号伝送速度は最高で500km/h以上に達したという。18世紀末から1855年まで60年以上運用され、クリミア戦争(1853年~1856年)でも使用されたそうだ。

 1836年、この視覚的電信システムを使用した不正行為が発生している。電信オペレーターが、正規のメッセージの中に、株式市場の情報を気づかれないように埋め込んでボルドーへ送信。ボルドー側でそれを受け取った別のオペレーターが、競合より早く株を売買して利益を得たという。

 この不正をしたオペレーターたちは結局捕まってしまったものの、当時はこのような行為を明確に禁止する法律がなかったため、裁判で無罪となったそうだ。ただ、翌1837年にフランス政府は民間電信網を禁止する法案を可決し、この法律は20世紀末まで実質的に変更されずに維持されたという。

 そしていま、最新のテクノロジーである「AIエージェント」についても、気になる実験結果が発表されている。AIエージェントを手にした人は、不正を働きやすくなるというのだ。