Mohamed HassanによるPixabayからの画像
米スタンフォード大学の研究チームがこのほど公表した一つの論文が、産業界に静かな衝撃を与えている。
生成AIの急速な普及が、キャリア初期の若年層の雇用を著しく奪っているという現実を、数百万人の給与記録という大規模な実証データで初めて明らかにしたからだ。
AIがもたらすのは、単に業務の効率化か、それとも雇用の破壊か――。
この長年の議論に対し、今回の研究は「AI革命はまず、経験の浅い若者を不均衡に直撃する」という説得力のあるデータを示し、警鐘を鳴らした。
大規模データが示す「経験の価値」
論文「炭鉱のカナリアか?― AIが雇用に与える最近の影響に関する6つの事実」を発表したのは、スタンフォード大学のエリック・ブリニョルフソン教授ら3人の研究者だ。
研究チームは、全米最大の給与計算代行会社ADPが持つ数百万人の匿名化された給与記録を分析した。
その結果、2022年以降、AIの影響を最も受けやすい職種(カスタマーサービス、会計、ソフトウエア開発など)において、22〜25歳の労働者の雇用が、他の層に比べて13%減少していることが分かった。
一方で、同じ職種でも経験豊富な労働者や、看護助手のようにAIによる代替が難しい対人サービス職では、安定もしくは増加傾向にあった。
この事実は、AIが学校教育などで得られる「体系化された知識(形式知)」の代替を得意とする一方、長年の実務を通して培われる「経験に基づく知識(暗黙知)」を置き換えるのは、いまだ困難であることを示唆している。
若年労働者は、実務経験が少ない分、後者の「武器」を持たず、AIとの代替競争にさらされやすい構造が浮き彫りになった。