金急騰には理由がある。写真はイメージ(写真:OscarDominguez/Shutterstock.com)
4月に急騰して以降、一進一退を続けていた金相場がにわかに上昇を始めた。米国の先物市場では取引の集中する中心限月の12月物が一時、1トロイオンス(約31.1グラム)3700ドルを突破。国内小売価格の指標になる田中貴金属工業の販売価格は初めて1グラム1万9000円(消費税込み)を超えた。ボックス圏にあった金相場を上向かせたのは主要国で財政不安が強まり、投資資金が国債市場から金市場へシフトしたことだ。
(志田 富雄:経済コラムニスト)
今回の急騰は様子が違う
ドル建ての金の国際相場は一つではない。現物市場では昔からロンドン市場の価格を利用している。新聞などのメディアは原油と同じく、米国の先物相場を重視する。金を上場しているのはニューヨーク商品取引所(COMEX)で、現在はシカゴ・マーカンタイル取引所(CME)グループに属する。
金の先物相場は金利などを反映し、期先の限月ほど高くなる。米商務省が発表した8月の雇用統計を受けて利下げ期待が高まった5日の高値を見ると、期近の9月物は3612ドル台、中心限月の12月物は3655ドル台、26年4月物は3709ドル台、26年12月物は3800ドル台に乗せた。先物相場が急騰すれば基本的に現物価格も上がり、3600ドルを超えた。
今春以降の相場の動きを振り返ってみよう。
金先物の中心限月が3500ドルを超えたのは4月22日(中心限月は6月物)。きっかけは米トランプ政権が相互関税を打ち出したことだ。米国市場は株とドル、米国債が一斉に急落するトリプル安に陥り、投資マネーは金市場に逃げ込んだ。核開発をめぐる協議でイラン情勢の不安も高まっていた。金先物は4月上旬に3000ドルを下回っていたので、わずか半月ほどで変動幅は500ドルを上回った。
(出所:CMEグループ)
その後は米国市場の緊張感も緩み、株式市場を中心に楽観論が復活。そうなると金相場の上値は重くなる。8月8日に金先物は急騰して3534ドル台(中心限月は12月物)の最高値を付けたが、これは英フィナンシャル・タイムズ(FT)紙が、米政府はCOMEXで決済に使う1kgと100トロイオンスの地金を課税対象にすると報じたことがきっかけだ。この情報は直後に否定され、金相場は急落した。
今回の急騰は様子が違う。