中国を訪問し宿泊先の北京のホテル前で記者会見を開いたNVIDIAのフアンCEO(7月16日、写真:AP/アフロ)
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 8月中旬、米エヌビディア(NVIDIA)のAIチップを巡る米中対立が新たな局面を迎えた。

 トランプ米政権との間で売り上げの15%を納付する「15%ディール」により、一度は中国向け輸出の道筋が見えた。

 しかしその矢先、今度は中国政府が自国企業に対し、エヌビディア製チップの購入を抑制するよう異例の指導に乗り出した。

 きっかけは、米商務長官が発した「侮辱的」とも受け取れる一言だった。

 この動きは、規制の応酬にとどまらず、国家のプライドと戦略がぶつかり合う、より複雑な対立の様相を浮き彫りにしている。

何が起きたのか:中国規制当局、H20に「待った」

 8月19日前後、事態は大きく動いた。

 中国の国家インターネット情報弁公室(CAC)や国家発展改革委員会(NDRC)といった主要政府機関が、国内の巨大テック企業に対し、エヌビディアの中国向けAIチップ「H20」の購入を控えるよう促す非公式な「窓口指導」を開始したことが、英フィナンシャル・タイムズ(FT)の報道で明らかになった。

 アリババ集団や北京字節跳動科技(バイトダンス)といった主要企業は、この指導を受け、H20の発注を大幅に縮小、あるいは見合わせた。

 この動きは、前月にエヌビディアのジェンスン・フアンCEO(最高経営責任者)が訪中し、中国市場へのコミットメントを再確認した直後だっただけに、同社にとって大きな打撃だ。

発端は米商務長官の「侮辱的」発言

 中国側が強硬姿勢に転じた直接の引き金は、7月15日のハワード・ラトニック米商務長官の発言だった。

 H20の輸出規制が解除された直後、同長官は米経済ニュース局CNBCとのインタビューでこう語った。

「我々は最高性能の製品を彼ら(中国)に売らない。2番手も、3番手さえもだ」

 さらに、「中国の開発者たちが米国の技術エコシステムに依存し、抜け出せなくなるまで(性能を落とした製品を)十分に売り込む。それが狙いだ」と、米国戦略の「本心」を明かした。

 この発言が、中国の指導者層のプライドを深く傷つけ、「侮辱的」と受け止められた。

 結果として、米国技術への過度な依存を断ち切り、国産チップへの移行を加速させるべきだという国内強硬論に、格好の口実を与えることになった。