(英エコノミスト誌 2025年9月6日号)
Gerd AltmannによるPixabayからの画像
共和党議員は媚びへつらう。裁判所は動きが鈍い。民主党は奮起できるか?
21世紀最初の四半世紀で米国人を束ねた政治思想が1つあるとするなら、それはワンマン支配は間違っているというものだ。
また、連邦政府は動きが緩慢で力不足だという見方には、米国人のほとんどが同意している。
この2つが重なれば、ホワイトハウスの主が一方的に命令を下して米国を統治することは不可能になるはずだ。
ところが、この大統領がやっているのはまさにそれだ。
兵士を送り込み、関税を発動し、中央銀行の支配を要求し、企業の株式を取得し、市民を脅して服従させている。
その効果は絶大だが、人気はない。
ドナルド・トランプ大統領を「支持する」人の割合から「支持しない」人の割合を差し引いた正味の支持率はマイナス14%だ。
これでは、昨年の大統領選挙候補者の討論会で失態を演じた直後のジョー・バイデン氏の値とほとんど変わらず、バイデン氏が強すぎるとは誰も思っていなかった。
これは謎だ。ほとんどの米国人はトランプ氏に不満を抱いている。それなのにトランプ氏は好き放題なことをしているように見える。なぜか。
電光石火のスピードと大統領の言いなりになる共和党
一つの答えはトランプ氏が自分を抑制する鈍重な勢力をはるかに上回るスピードで動いているということだ。
同氏はTikTok(ティックトック)のアルゴリズムのようなもので、見る者の注意を引き、何が起こったかを政敵が理解する前に次のことに移っていく。
連邦最高裁判所は、大統領による今年6月のロサンゼルスへの州兵派遣が合法だったかどうか、まだ検討すらしていない。
最高裁判事が時間をかけて考えている間にも、大統領は同じ策をシカゴでも使うかもしれない。
関税の発動が合法か否かについて最高裁が判断するのは数カ月先になる可能性がある。
大統領は今のところ最高裁の判断には従っているものの、法的手段が1つ封じられたら別の手段を講じようとする。そうすれば時計はリセットされる。
もう一つの答えは、共和党が常にトランプ氏に好き放題させるということだ。トランプ氏は共和党をまさに牛耳っており、党内の支持率は90%に近い。
それだけではない。この党の体系的な考えは、たとえ矛盾したことを言っていても、トランプ氏は常に正しいということだ。
政策論争は大統領の言葉の真意をめぐって争う神学論争と化した。
企業や大学、報道機関といった独立機関はトランプ氏に反旗を翻すかもしれない。だが、調整の問題に悩まされる。
この問題は、正すよりも指摘する方がはるかに容易だ。普段競い合っている組織同士が協力しなければならないからだ。
ハーバード大学にとって悪いことは、ライバル校にとっては悪いことではないかもしれない。
また、もしどこかの大手法律事務所がやり玉に挙げられたら、その仕事がライバルの法律事務所に流れる可能性がある。