こぞって有料座席指定列車の運行を開始した私鉄各社
鉄道の輸送力を増強する方法は単線を複線に、複線を複々線にするといった線増だけではない。運行している列車の運転本数や編成数を増やすことでも実現できる。
国鉄は列車の運転本数・編成数を増やすことで中央線の混雑解消を図ろうとしたのだろう。しかし、将来的に沿線人口が減少することが確実視されていただけに、普通車の連結はオーバースペックになってしまいかねない。そこで、運賃とは別に料金を徴収することが可能なグリーン車を連結するというアイデアにつながった。
こうして普通車10両編成で運行されてきた中央線・青梅線は、グリーン車2両を連結した12両編成で運行されることになった。高度経済成長期に実施された五方面作戦のいわば「ステージ2」ともいえる施策に当たる。それが中央線のグリーン車導入によって完了した格好だ。
普通車が削減されることはなく、単純にグリーン車が連結された分だけ乗車定員が増えるので、混雑が激しくなることはない。では、なぜもっと早くから中央線・青梅線にグリーン車は導入されなかったのだろうか。
その理由は、グリーン車を2両も連結すると、当然ながら列車一編成が長くなり、駅によってはホームに電車が収まりきらなくなるからだ。JR東日本はホームの延長工事に時間を要したほか、中央線・青梅線にグリーン車を導入するため、新たにグリーン車用の車両を新造するなど莫大な費用を投じてきた。
もっとも中央線の混雑を避けたいと思う乗客や座って通勤したいという人は多く、グリーン車の需要は高い。JRはグリーン車の利用者が多ければ、巨額な投資も回収できると試算しているだろう。
こうした流れはJRだけにとどまらない。近年になって東京圏・大阪圏の私鉄各社は、こぞって有料座席指定列車の運行を開始し、これらは混雑時にも座って移動したいという需要をすくい取っている。
東京圏で早くから有料座席指定列車の運行を始めたのは京浜急行電鉄だ。1992年から「ウィング号」という列車を運行。朝に運行されるモーニングウィング号は三浦海岸駅が始発駅で、次の停車駅は横須賀中央駅、そして金沢八景駅、金沢文庫駅と停車する。JR各線や横浜市営地下鉄、東急線・相鉄線・みなとみらい線が乗り入れる横浜駅を通過するという大胆な停車駅設定になっていた。
ウィング号は座って通勤が可能という点が利用者から好評を博した。これを見た他社も、追随して同じような有料座席指定列車の運行を開始していく。
特に2008年から東武東上線に登場した「TJライナー」は通常の運行時はロングシート、有料座席指定列車として運行する際にはクロスシート(進行方向に向けて座ることができ、乗客が窓側と直角になっているような車両)へと転換されるデュアルシートを導入し、鉄道業界に新風を吹き込んだと言われる。
東急電鉄も2018年に大井町線、2023年から東横線の列車にQシートと呼ばれるデュアルシートの有料座席指定の車両を組み込んだ列車を運行している。
新宿―八王子間で中央線と競合関係にある京王電鉄は、2018年2月から有料座席指定列車を運行してJRから利用者を奪いにかかった。
中央線と「新宿─八王子駅」間で競合関係にある京王線が運行を始めた有料座席指定列車(筆者撮影)
JR東日本はその対抗策として有料座席指定列車を登場させるのではなく、グリーン車を導入した。ただし、グリーン車は指定席車ではないので、グリーン券を購入したからといって必ず座れる保証はない(満席の場合は払い戻しができるが、逆にデッキに立っていても利用するにはグリーン券が必要になる)。