(英エコノミスト誌 2025年8月23日号)
インテルの受託生産事業について発表するリップブー・タンCEO(4月29日、写真:ロイター/アフロ)
米国が世界最強の技術大国であり続けるには友好国が必要だ。
あの強者インテルが、ずいぶんと落ちぶれたものだ。半世紀前、この米国の半導体メーカーは最先端の代名詞だった。
パソコン向け半導体チップの市場を牛耳るに至り、2000年には短期間ながら市場時価総額で世界第2位の座についた。
しかし最近、時価総額が1000億ドル程度のインテルは半導体業界のトップ15位にも入らず、人工知能(AI)向けの最先端チップを事実上一つたりとも供給していない。
かつて米国の技術と商業の強さの象徴だったものの、最近では助成金や保護を受ける立場に回っている。
本誌エコノミスト今週号の発行時には、ドナルド・トランプ米大統領が疑似国有化を検討していたほどだった(編集部注:米国政府は22日、インテルに出資することを明らかにした)。
AI競争の勝敗分かつ半導体の戦略的重要性
半導体がますます21世紀のカギを握るようになっている。
なかでも国防面での重要性が増しており、中国と米国のAI競争では、半導体が勝負の分かれ目になる可能性もある。
自由貿易論者でさえその戦略的重要性を認めており、最先端の半導体を台湾積体電路製造(TSMC)と、同社の本拠地にして中国による侵攻の脅威に直面している台湾に世界が依存することに不安を覚えている。
しかし、半導体チップは産業政策の支持者にも非常に難しい試練を突き付けている。半導体の製造は専門化と複雑さ、そしてグローバル化が生み出した奇跡だ。
そのような条件下では、市場介入は失敗しやすい。その点はインテルがあれほど鮮明に示している通りだ。
事態がどこまで悪化しうるかを把握するために、インテルが抱える苦悩について考えてみよう。
まず、同社はその傲慢さが災いしてスマートフォンとAIの両方の波に乗り損ない、英半導体設計大手アームや米エヌビディア、TSMCとの競争に敗れた。
米国内での半導体製造を促進することを目指したジョー・バイデン前大統領のCHIPS・科学法では、インテルに80億ドルの助成金と最大120億ドルの借入枠が約束された。
だが、同社はいまだに悪戦苦闘を続けている。
オハイオ州の工場は今年稼働し始めるはずだったが、今では2030年代前半の操業開始が見込まれている。同社は多額の債務を抱え、破綻せずに済むレベルの現金を稼ぎ出すだけで精一杯だ。