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(英フィナンシャル・タイムズ紙 2025年8月7日付)

 

台湾が実施した軍事訓練を視察する頼清徳総統(7月14日、提供:台湾総統府/AP/アフロ)

前編「最大のリスクは中国の軍事侵攻に非ず、台湾の政治家や利益団体が中国共産党の片棒に」から読む

 中国共産党と同様に、国民党も台湾は大中華圏の一部だと考えている。

 もっとも、その定義については、かつて敵同士だった両者は見解を異にしており、国民党の主席が初めて中国を訪問した2005年以降、両党は定期的に対話を持っている。

国民党の中国接近に警鐘

 近年はこの関係が近すぎるとの指摘が一部にあり、国民党の著名な政治家たちが北京訪問にあたって共産党の言葉をそのまま繰り返していると非難されている。

 先日のリコールの標的になった議員の一人、王鴻薇(ワン・ホンウェイ)は2021年、中国国営放送のトークショーに出演した際に台湾の政府をこき下ろした。

 また国民党の元首席で台湾総統も務めた馬英九(マー・インチウ)は前回(2024年)の総統選挙の期間中に、台湾は小さすぎて弱すぎるから自衛できないと述べ、「習近平を信頼」するよう台湾の人々に促している。

 以前なら、このようなコメントはパフォーマンスにすぎないとか、ぶざまだとか、感傷的だなどとして一蹴することができた。

 だが、昨年1月に国民党が議会第1党になったことで、大きな意味を持つようになった。

 いったん権力を握ると、国民党はある小党と連携し、物議を醸す法案をわずか数週間で次々に押し通した。

 そのなかには、行政府と司法府の権限を弱めて立法府の権限を強化する法案も含まれていた。

 この法律については、後に憲法法廷が改正部分を違憲と判断したものの、国民党とその盟友は憲法法廷が判決を下すうえで必要な裁判官の定足数を引き上げ、かつ総統が指名した新しい裁判官の就任を妨げた。

 おかげで憲法法廷は定足数に満たないことになり、マヒ状態に陥った。

 このほかにも、過去に例のない予算削減や、中央政府から地方政府(過半数は国民党が運営している)への資金再配分といった戦術が利用された。

 国民党はさらに、中国の侵攻を押し返すために台湾が軍事力を用いることを制限するという、物議を醸す法案も提出した。

 この法案によれば、中国と台湾は厳密に言えば依然戦争状態にあり、軍事力の使用を制限すれば紛争のリスクが低下するのだという。