近年は60歳以上の派遣社員も増えている(写真:optimus/イメージマート)
超高齢化社会の到来で、もはや60代は「高齢者」ではなくなっている。60歳以上の就業率は年々上昇しており、60~64歳の7割以上、65~69歳の5割以上が収入のある仕事に就いているという。
もっとも、労働市場において、60代はつい10年ほど前まで「終わった人」だった。「猫の手も借りたい」人手不足の現場でも、60歳以上の「シニア労働者」はいまだに扱いにくい存在のようだ。
それでは60歳以上と一緒に働く現場の若い世代は、どのような気持ちでシニアを採用し、シニア労働者にどんな本音を抱いているのだろうか。現場で重宝されるシニアとはどんな人なのか──。シニア採用を積極的に行っているという企業の社員が、匿名でインタビューに応じてくれた。(若月 澪子:フリーライター)
派遣社員にシニアが増えている理由
Yさん(20代女性)は大手派遣会社の社員として、事務職の人材派遣を担当している。Yさんの派遣会社はテレビCMなどでも知られており、業界では「派遣大手6社の一つ」と呼ばれているという。
2000年代に急速に拡大した派遣業。2012年に派遣法の改正で厳しい制限が設けられたものの、人手不足に加え、プロジェクトごとに人材を使いたいという企業も多く、今もそのニーズは高い。
かつて事務職の派遣社員と言えば、20~30代の女性が中心だったが、近年は平均年齢が上がっている。Yさんの会社に所属する派遣社員の平均は45歳で、この平均年齢を引き上げているのが60歳以上の派遣社員だ。
「私がこの会社に就職した6年前は、私の担当には60歳以上の派遣社員は一人もいませんでした。でも、ここ数年で急激に増えました」
Yさんの会社では、事務から専門職までさまざまな人材を集めており、登録者はおよそ130万人(派遣社員は複数の派遣会社に登録することが一般的で、その平均登録数は3社である)。
このうちYさんはおよそ100人の派遣社員を担当し、このうち60~65歳が20人ほどいる。男女比は3対7で女性が多い。Yさんは顧客企業から人材紹介の依頼を受け付け、人材の採用・選定・派遣、さらに派遣後の派遣社員をフォローしている。
「事務職でシニアの派遣社員が増えたのは、派遣の働き方がシニアのニーズと合致してきた点も大きいと思います。コロナ前の派遣はフルタイム出勤が基本でしたが、コロナ後は週3~4日出勤やリモートワークでもOKな企業が増えました。シニア世代は親御さんの介護、お孫さんのお世話、自身の持病などの事情を抱える方も多く、柔軟な働き方を希望するシニアが派遣に残留・流入していると考えられます」
Yさんが担当するシニアは上場企業や官公庁に派遣され、事務や経理などを担当しているという。近年ハローワークの有効求人倍率などを見ると、事務職の求人は減っているように見えるが、派遣会社ではどうなのか。
「当社に依頼される事務職の求人数は減っていないですね。恐らく正社員の事務職を減らして、派遣社員に切り替える企業が増えているのではないでしょうか」
つまり「事務職」は非正規化がますます進行している職種といえる。事務職は人気があるので、非正規であっても希望する女性やシニアはしばらく枯渇しないと雇用側からは見られているのだろう。