1965年生まれにしては珍しく5人兄弟だったせいもあるのだろうが、私には性交をしていればいずれ子供ができるはずだという思い込みがあった。
結婚後は避妊をしていなかったし、遠からず妻は妊娠するだろう。しかし結婚から3年が過ぎても妻は妊娠せず、私は次第に不安になってきた。
私に妻以外の女性を妊娠させた「前科」はなく、妻からもかつて中絶を経験したとは聞いていなかった。それならまずは検査を受けてみよう、とはならないのが、この問題の微妙なところである。
初めから子供は持ちたくないと意見を合わせて結婚するならともかく、一般に結婚とは夫婦が共に暮らすことであり、2人の間から生まれる子供を育ててゆくことである。
家名の存続や、まして国家の繁栄など端から度外視するとしても、子供ができるかできないかは、夫婦の将来にとって決定的な要素であるのは間違いない。まして子供ができない原因が自分にあるとしたら・・・。
妻は30歳、私は27歳とお互いにまだ若く、来月には妊娠が分かって、実は子供ができないんじゃないかって心配しちゃってさあ、と笑顔で取り越し苦労を口に出せるかもしれない。期待と不安を胸に抱えながら、さらに1年が過ぎたが、妻は妊娠しないままだった。
検査で精子減少症が判明
そんなある日の午後、私は本棚にある『家庭の医学』を開いた。そこには「不妊症」の定義として、「普通に性生活があり、結婚後2年たっても妊娠しない場合を不妊といいます」と書かれていた。
たった2年で不妊扱いされてたまるか、と憤るのと同時に、やはりそうだったのかと私は失望とも安堵ともつかない溜め息をもらした。なにはともあれ不妊と分かった以上、ためらっている暇はない。
「不妊のひとで子供のほしいひとは、精密検査を受け、原因を調べなければなりませんが、その際、かならず夫婦そろって受ける必要があります。不妊の夫婦のうち、20パーセント以上は、夫の側に原因があるからです」
『家庭の医学』には、検査を受けるためには最低でも3カ月間分の基礎体温表が必要だとも書かれていて、翌日から妻は毎朝起きがけに体温を計るのが日課になった。