報告書を公表したジーン・シャヒーン上院議員(ニューハンプシャー州選出、7月10日上院歳出委員会で、写真:AP/ロイター)
米上院外交委員会が報告書
米議会上院外交委員会のジーン・シャヒーン筆頭委員と民主党議員らは7月14日、「撤退の代償:米国は世界的リーダーシップを中国に明け渡す」と題した91ページの報告書を公表した。
報告書は、トランプ政権の最初の6か月間で、中国に対する米国の競争能力がいかに著しく損なわれたかを詳述している。
その上で、同政権が対外援助、強力な外交手段、同盟・パートナーシップの活用を含む、政府全体にわたる一貫した米国戦略を欠いていることが、自国の経済および安全保障上の利益を損ない、中国が世界的な影響力を拡大する余地を生み出している、と警告している。
報告書は、アジア、アフリカ、ラテンアメリカ、ヨーロッパへの視察、外国当局者や対外援助関係者・専門家へのインタビュー、国際NGO、米国企業、そしてオープンソース調査など、委員会スタッフによる合計数千マイルに及ぶ出張に基づいて作成されたという。
その結果として報告書は、米国が長期的な国家安全保障上の最大の課題、すなわち国際舞台における中国との競争に対抗するために必要なツールの緊急的な復旧と再構築を求める内容となっている。
第2次トランプ政権の憂慮すべき状況
第2次トランプ政権は、世界のあらゆる場所から撤退し、同盟国を攻撃し、米国の外交手段を削減し、ロシアに対して融和的など敵対国を包摂する姿勢を示している。
その一方で、中国は米国が関与を弱めた地域・国に外交攻勢を仕掛け、影響力を高め、自国に有利なように世界秩序を作り変えようとしている。
中国が「中国の夢:中華民族の偉大な復興」を旗印に、米国を置き去りにする未来像を明確に示している時、米政権が世界的なリーダーシップを放棄することは危険であり、米国民に現実的な代償を強いることになる、と同報告書は憂慮している。
その憂慮すべき状況として、以下のような具体的事項を指摘している。
・同盟国やパートナー国に対する世界的な貿易戦争を仕掛けることは、国内の経済混乱やコスト上昇を招くだけでなく、同盟国の防衛費増額を困難にし、米国の防衛産業基盤に悪影響を及ぼすとともに、一部のパートナー国に中国とのより緊密な経済関係の再考を迫ることになる。
・国務省における大規模な人員削減と米国国際開発庁(USAID)を事実上閉鎖すること。
・中国がプロパガンダの世界的範囲を拡大しているにもかかわらず、米国国際メディア局(USAGM)とラジオ・フリー・アジアを含むその関連ネットワークを閉鎖すること。
・敵対勢力が拡散する偽情報の検知と対応において米国や同盟国、パートナーを支援する国務省の主要な偽情報対策機能を解体すること。
・世界中のミレニアムチャレンジコーポレーション(MCC)のプロジェクトを一時停止し、場合によっては廃止すること。
なお、MCCは、2004年1月に米国議会超党派の強力な支援を受けて設立され、公正で民主的な統治、経済的自由、国民への投資に取り組む世界の最貧国への資金提供プロジェクトのことである。
・中国の影響対策基金(CPIF:Countering PRC Influence Fund)および戦略的競争相手対策基金(CSC:Countering Strategic Competitors)プログラムを凍結すること。
・米国政府の基礎科学研究プログラムへの資金提供を打ち切り、留学生と米国のトップクラスの学術機関を攻撃し、米国主導の人材交流プログラムを排除することで、米国で学び革新を行う国際的な才能を引き付ける能力を損なう。
・国連などの主要な国際機関への米国の拠出金をほぼすべて廃止することを提案し、近い将来に米国がこれらの機関から脱退することを示唆する。
・米中競争が激しい地域における米国の外交拠点の閉鎖を提案すること。
このように、報告書は、米国の対外援助・開発プログラムの実施能力の弱体化、米国が支援する独立系メディアの骨抜き、偽情報対策ツールの解体、米国主導の人的交流の近視眼的な排除、主要な国際機関の放棄、そして米国の同盟国およびパートナー国への攻撃などを列挙している。
そして、これらの行動は、中国に先行し、競争する米国の能力を間違いなく弱体化さると警告しているのである。
その上で、報告書は、米国安全保障の弱体化を防ぐために、次のような事項を提案している。