2025年7月5日、日本選手権、男子100m決勝で優勝した桐生祥秀 写真/長田洋平/アフロスポーツ
(スポーツライター:酒井 政人)
アジア選手権王者にまさかの結末
“日本人最速”は誰なのか。国立競技場で行われた日本陸上競技選手権の男子100mは大会前から“嵐の予感”があった。
世界陸上で2大会連続入賞を果たしているサニブラウン・アブデル・ハキーム(東レ)が開幕前日会見で「股関節上部の(右の)骨挫傷」で全治3週間と診断されことを明かしたのだ。
1週間前の練習中に「アクシデント」があり、「思わぬ体勢で踏ん張って、骨に負荷がかかった」ときに発生したようで、3年ぶりの4度目の優勝に暗雲が垂れ込めていた。
サニブラウンのトラブルにより、ダントツのV候補となったのが昨年、0.005秒差でパリ五輪の個人代表を逃した栁田大輝(東洋大)だ。今季は5月上旬の関東インカレで追い風参考ながら9秒台で駆け抜けると、同18日のセイコーゴールデングランプリで強力な海外勢を抑えて優勝。5月下旬のアジア選手権も連覇を果たしている。
しかし、栁田は早々と姿を消すことになる。予選はスターターと選手の“呼吸”が合わずにスタートのやり直しが頻発した。そんな状況のなかで栁田が5組に登場。号砲が鳴る前に姿勢が崩れる。不正スタートで予選敗退。「一歩も走れなかった……」と茫然として、まさかの結末に涙を流した。
「去年のように五輪ライアルの不安でどうしようもないという怖さはなくて、むしろどれだけ速く走れるのか楽しみでワクワクしていたんです。前日の公式練習で(スターターのタイミングに)結構バラつきがあるなと思ったんですけど、それがスタート時は完全に頭のなかにありませんでした。テンションが上がりすぎて冷静になれていなかったのかな……」
絶好調だったことが裏目に出てしまったようだ。
「すぐには立ち直れないと思うんですけど、シーズンが完全に終わったわけではありません。同期の成島陽紀に、『お前はこんなところで終わるはずじゃないだろう』と言ってもらったので、また元気に走れるようにしたいなと思います」