泉大津市は独自のサプライチェーンを構築し、調達したお米を給食で提供している(写真:泉大津市提供)
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コメ流通の「多重構造」が米価高騰の一因となっていると指摘されているなか、この問題を独自に解決しようとしている地方自治体がある。大阪府泉大津市だ。同市は多重構造の一因となっている卸などの中間業者を介さずに、安価かつ安定的にコメを市民に届ける仕組みを2023年に構築した。

最近では米価が高騰するなか、「5キロ3500円」という値段で市民への一般販売も実施している。

泉大津市の南出賢一市長は「(このスキームを策定した結果)作付面積が2倍になった農家もいる。市は市場価格より約40%コメを安く仕入れることができた」と語る。いったい、どうやって実現したのか。

(湯浅大輝:フリージャーナリスト)

>>後編:【令和のコメ騒動】農政の失敗が招いた、農家への「買い叩き」と「無関心」…しかも「国は国民と農家を守らない」

2024年はじめに察知した「不穏な動向」

──泉大津市は学校給食向けのコメの調達で独自のサプライチェーンを作り上げ、最近では市民にも銘柄米を市場価格より安価に購入できるチャネルを市民に提供しています。「令和のコメ騒動」では供給体制の脆弱性が明らかになりましたが、南出市長はどんな問題意識からこの取り組みを始めたのですか。

南出賢一・泉大津市長(以下、敬称略):泉大津市では「令和のコメ騒動」が起こる4、5年前からこのような事態が起こることを予測しており、コメ不足が本格化する約半年前、つまり2024年はじめには予測が確信に変わっていました。

 というのは、当時から「卸売業者が『コメを大量に買い占め、売り渋っている』」という情報を早くから得ていたからです。2023年、2024年産のコメは酷暑の影響で歩留まり(商品として販売できる水準の品質があるコメの割合)が悪く、「白米」が市場に出回る絶対量が減りそうだということを農家から聞いていました。

 また、2024年から歴史的な円安が進行していたことから、「卸売業者が海外輸出を増やす」という話も伝わってきていました。実際、農家からは「卸売業者がやってきて、大量の現金を見せながら『高く買います』と言ってきた」というような話も聞いていました。つまり、「コメ供給の大混乱が起きる」ことがすでに分かっていたのです。

(泉大津市が構築したサプライチェーンの流れ。泉大津市が地域のJAや農業法人と契約し、一定の数量のコメを確保する。市が購入したコメは精米事業者である東洋ライスが精米する。(提供:泉大津市))

 泉大津市が、主に学校給食向けに、卸などの中間事業者を介さずに市が生産者から調達する独自のサプライチェーンを構築したのは2023年のことです。幸いにも、2024年、2025年にコメ不足と価格高騰が進行する中、泉大津市では学校給食をはじめとする市の各事業おいて安定的にコメを調達することができました。

 実際、2024年産のコメの市場価格は前年比約60%上がったとされていますが、泉大津市では20%増ですみました。しかも、我々が調達するコメの9割以上が「有機JAS米」や「特別栽培米」です。

 自治体と農家が直接つながる「ダイレクトサプライチェーン」を構築することは、市民の生活を守ることに直結すると実感しています。

南出 賢一(みなみで・けんいち) 大阪府泉大津市長 1979年 泉大津市生まれ。上條小学校、小津中学校、浪速高校、関西学院大学商学部卒。(株)ニチロ、(有)南出製粉所を経て、2007年に泉大津市議会議員に初当選。2011年・2015年に再選し、泉大津市議会議員を3期務める。2016年12月泉大津市長選で当選。

 さらに、7月からは提携先の東洋ライスを通して、市民へのコメの一般販売も始めました。価格は5キロ3500円と、店頭価格より割安になっています。こうした柔軟な対応が可能なのは、米どころの自治体との連携を深め、コメの一括発注を常にできる仕組みを作ってきたからです。

──自治体が自ら、コメの「卸売機能」を持つ、ということでしょうか。