学会や研究会はなぜ重要か

 学会や研究会は、研究者が日ごろ積み重ねてきた研究成果を他の研究者たちに向けて発表し、意見交換を行う極めて重要な機会である。

 こうした場では、自身の研究内容について新たな視点を得られるだけでなく、他者の研究を通じて新しい知識や技術に触れ、今後の研究活動のヒントを得ることもできる。そのため、多くの研究者が毎年積極的に学会に参加している。

 がん研究の分野においても、多種多様な学会が存在しており、それぞれが異なる専門性や目的を持って開催されている。

 たとえば、分子生物学的な観点からがんを研究する学会もあれば、臨床に直結するトランスレーショナルな内容を重視する学会もある。このように、それぞれの学会には独自の特色や参加者層があるため、自分の研究の方向性に応じて選択することが求められる。

 ここまで紹介した比較的小さな規模の学会だけではなく、大規模な学会も重要だ。

 毎年参加しているのが、日本癌学会、日本分子生物学会、日本生化学会といった、いわゆる大規模な学会である。これらの学会はいずれも会員数が非常に多く、基礎から応用まで幅広い研究分野の研究者が全国から集まる。

 日本癌学会は、日本のがん基礎研究において最も中核的な存在といえる学会であり、その影響力は大きい。2025年度は金沢市にて開催が予定されており、多くの研究者が集結することが予想されている。

 このような大規模学会では、シンポジウム、口頭発表、ポスター発表など、さまざまな形式で多数の演題が発表される。プログラム全体は1日を通して長時間に及ぶこともあり、すべてを聴講するのは現実的に不可能である。

 そのため、参加者は自分の専門分野や興味関心に即したセッションを選び、計画的に行動する必要がある。特に、既に論文として発表されている研究成果に加え、まだ発表されていない最新のデータや進行中の研究についても聴くことができる点は、大きな魅力である。

 大規模な学会では、発表者が他の学会でも同様の内容を繰り返し発表している場合もあり、内容が重複する傾向があるのも事実である。そのため、先に示したがんと代謝研究会のように、新しい視点や議論を求める場合には、時に中規模あるいは小規模の、テーマがより細分化された研究会に参加することが、新鮮な刺激や有益な学びにつながることも少なくない。

齊藤康弘(さいとう・やすひろ)
 慶應義塾大学政策・メディア研究科(先端生命科学研究所)特任准教授として乳がんの基礎研究に携わる。2018年に慶應義塾大学 政策・メディア研究科 特任講師に着任する以前は、米国Beth Israel Deaconess Medical Center / Harvard Medical SchoolでResearch Fellowを務め、その前にはHuman Frontier Science Program Long-term FellowとしてカナダのPrincess Margaret Cancer Centreに在籍。2014年には株式会社ディー・エヌ・エーのDeNAライフサイエンスに入社し、遺伝子解析サービス「Mycode」の開発に従事。2011年には東京大学大学院医学系研究科 微生物学教室 助教として、胃がん発症の分子機序を研究した。北海道大学大学院理学院博士後期課程を修了(2011年)し博士号を取得。同大学院水産科学研究科博士前期課程修了(2006年)。同大学水産学部生物生産科学科卒業(2004年)。株式会社ステラ・メディックスのサイエンティフィックアドバイザーとフリーランスのサイエンティフィックライターとしても活動している。

慶應義塾大学政策・メディア研究科先端生命科学研究所分子腫瘍グループ(齊藤康弘ラボ)
Institute for Advanced Biosciences, Keio University Molecular Oncology Group