「使用済み核燃料プール」が危ない
NPECによる今回のシミュレーションには、大きな特徴がある。攻撃されるのは、古里原発の「使用済み核燃料プール」だったという点だ。それを鈴木氏はどう見たのだろうか。
「福島第一原発事故でも一番懸念されたのが、使用済み燃料プールの破損でした。4号機が爆発した時、プールの水がなくなったのではないか、と。核燃料プールは原子炉建屋の最上階にありますが、水が失われると、核燃料から放射性物質が大量に出てしまいます。これが一番恐ろしい」

「実際、福島原発事故当時には、近藤駿介原子力委員長が菅直人首相の指示を受け、最悪のシミュレーションを作成しました。私は原子力委員長代理でした。それによると、東京も含めて原発から250キロ圏内、合計で5000万人が避難対象になった。4号機の核燃料プールは結局、偶然が重なって別の場所から水が流れ込んでおり、最悪の事態は免れましたが……。いま現在、日本の各原発にある核燃料プールは使用済みの燃料でほぼ満杯です」
NPECのシミュレーションによって、どんな教訓が得られたのだろうか。鈴木氏は何を思うのだろうか。
「本当に緊急事態になった時には、どの国も自国第一です。自国の利益を優先します。トップリーダーは自国の国民第一にならざるを得ないのです。それが今回のシミュレーションでは、もう顕著に現れた。結局、日米間の協力がぎくしゃくしたという事実が残ったのです。自分の家族が大変な時に、隣の家に助けに行けるか? 問題は、そういうところです」
「日本には六ヶ所再処理工場(青森県)という世界最大級の、使用済み燃料の塊のようなところがある。六ヶ所が襲われたらどうなるのか? それを恐れました。昨年末には、ロシアが東海村の核関連施設を狙っていたことがフィナンシャル・タイムズの報道で明らかになっています。つまり、狙われる可能性がある。それを前提に考えていかなければならないということを痛切に感じました」
「ロシアがウクライナの原発を攻撃した後、われわれは『何が起きてもおかしくない』ということを知らなければいけない。もちろん、国際規範としてどの国にも『原子力施設は攻撃しない』と約束させる方向で議論は進めないといけない。しかし、万が一のことも考えるのが国家の安全保障。その時にどうやって国民を守るか、真剣に考えていかねばなりません」
【韓国原発攻撃シミュレーション】
① 北朝鮮のドローン攻撃で放射能拡散、日本は1000万人避難…米国の介入で戦争に
② 米国は中国・北朝鮮攻撃へ、日本は軍事協力拒否…危ないのは使用済み核燃料
③ 日本の原発施設が攻撃されたら…六ヶ所再処理工場なら最大避難者数は8920万人
青木 美希(あおき・みき)
ジャーナリスト、作家。北海タイムス、北海道新聞、全国紙の3紙で記者として計23年。『地図から消される街』(講談社現代新書、2018年)で日本医学ジャーナリスト協会賞など3賞、『なぜ日本は原発を止められないのか?』(文春新書、2023年)で脱原発文学大賞、貧困ジャーナリズム賞を受賞。YouTube『あおタイムス』を立ち上げ、東京電力福島第一原発やその周辺の今を現地映像、インタビューで伝えている。