ジョブズがリベラルアーツに没頭して得たもの
──現在リーダーを務めている人、今後リーダーとなる人に向けて、メッセージをお願いします。
桃野:私は「何の役に立つのかわからないような経験を、たくさんしてほしい」と考えています。そして、そうした経験を通じて、多くの人と出会い、人脈を築いていってほしい。これが、私が伝えたいメッセージです。
スティーブ・ジョブズがスタンフォード大学の卒業式で語った有名なスピーチ、「Stay hungry, stay foolish」。この言葉ばかりが一人歩きしていますが、あのスピーチの本質はそこではないと私は考えています。
彼が最も伝えたかったのは、「いまやっていることが、将来どう役に立つかはわからない。しかし、いつか振り返ったときに、それが必ず『点』と『点』として繋がってくる」ということだと思います。
ジョブズはこの「コネクト・ザ・ドッツ」という言葉を、スピーチの中で2度も繰り返しています。それが、彼のスピーチの核心だったと私は考えています。
iPad 2発売に際する彼のプレゼンには、非常に象徴的な言葉が含まれています。それは、「テクノロジーはリベラルアーツと融合することで、人の心を震わせる力を持つ」という言葉です。
彼は大学時代、リベラルアーツに没頭していました。文法、修辞学、論理学、算術、幾何学、音楽、天文学といった「自由七科」と呼ばれる学問群。ジョブズはその当時、まさかそれが後にiPadの哲学や美意識に結びつくとは思っていなかったはずです。
けれども、無駄に思えた経験が、時を経て必ず意味を持つようになる。これは、ジョブズだけに限られた話ではありません。私たち一人ひとりにも当てはまります。
ですから、いま目の前のことに意味を求め過ぎなくてもいい。むしろ「きっと将来、何かにつながるだろう」と信じて、未知のことにも飛び込み、面白い人生を送ってほしいと思っています。リーダーであろうとなかろうと、人生に深みをもたらすのは、そうした「意味の見えない経験」の積み重ねです。
無駄に見えることほど、大きな価値を持つ。そう信じて、ぜひたくさんの経験と出会いを楽しんでください。
桃野泰徳(ももの・やすのり)
編集ディレクター・国防ライター
1973年生まれ。大和証券勤務を経て、中堅メーカーなどで最高財務責任者(CFO)や事業再生担当者(TAM)を歴任し独立、起業。リーダー論、組織論を中心にさまざまなメディアに寄稿している。
関 瑶子(せき・ようこ)
早稲田大学大学院創造理工学研究科修士課程修了。素材メーカーの研究開発部門・営業企画部門、市場調査会社、外資系コンサルティング会社を経て独立。YouTubeチャンネル「著者が語る」の運営に参画中。